「こちらの神主の方ですか?」
「そうですが……」
「お名前をうかがってよろしいでしょうか。私は日村と申しますが……」
「大木和善(おおきかずよし)と申します」
「ちょっと訊きたいことがあって、訪ねてまいりました」
「警察の方ですか?」
「いえ、違います」
「何をお訊きになりたいのでしょう」
「縁日についてです」
「ああ。当社の縁日なら、あそこに案内がございます」
「露店が出るのだそうですね?」
「ああ、それは秋の大祭ですね。すべての縁日に露店が出るわけではありません」
「今年も店が出るんでしょうか」
「出ますよ」
「露店商の方が出されるのですか?」
「テキヤさんのことをおっしゃっているのですか?」
「ええ」
「テキヤさんの露店ではありません。町内会の人たちが出すことになっておりまして……」
「へえ……」
 日村は驚いた振りをした。「露店と言えばテキヤだと思っておりましたが……」
「失礼ですが、テキヤさんのご関係の方ですか?」
「知り合いがおります」
「もしかして、多嘉原会長ですか?」
「会長をご存じですか」
「長い付き合いです」
「多嘉原会長のところで、露店の手配などをされていたようですね」
「かつてはそうでした」
「町内会の方が店を出されるということですね」
「ええ。今年はそうです」
「どうして、そういうことになったのでしょう」
「警察が訪ねて来ましてね……」
「警察……」
「排除条例ですよ。何でも、祭礼等の措置ってやつがあるらしい。祭や花火大会、興行なんかの主催者は、行事の運営に暴力団関係者を関与させてはならないってことなんです」
「それで、祭からテキヤを追い出せと……」
「町内会からも申し入れがありました」
「申し入れ……?」
「テキヤのような怪しげな連中が、町内で露店を出すのは望ましくないと……。露店なんて、怪しげだからいいんですよね」
「はあ……」
「堅気とはちょっと違う怪しい雰囲気が人を惹き付けるんです。祭ってそういうもんですよ。ケレン味って言うんですかね……」
「わかるような気がします」
「あなたも堅気ではないでしょう」
「え……?」
「多嘉原会長の知り合いだとおっしゃいましたし、独特の色気がありますからね」
「色気ですか……」
「立ち話もナンですから、社務所のほうへどうぞ」
「お邪魔じゃありませんか?」
「話を聞きに来たんでしょう」
「それはそうなんですが……」
「じゃあ、遠慮なくどうぞ」
 拝殿の右手に社務所がある。どうやら神主の住居を兼ねているようだ。案内されたのは、お札などを並べている窓口のある小部屋だ。そこに小さな応接セットがあった。
 大木と日村は小さなテーブルを挟んで座った。