神社の経済状態が、テキヤを追い出すこととどういう関係があるのだろう。日村は疑問に思ったが、それを阿岐本に質問するのははばかられた。
 訊いてもどうせはぐらかされるのだ。
 永神が事務所をあとにした約一時間後の午後六時頃に、真吉とテツが戻ってきた。
 日村は言った。
「早いな。手ぶらで帰ってきたんじゃないだろうな」
 テツがこたえた。
「真吉さんが、近所のおばさんたちからいろいろと聞き出しました」
「お、真吉マジックか」
 女性なら幼児から老婆まで真吉には気を許してしまう。別に媚びを売るわけでも、機嫌を取るわけでもない。
 普通にしているだけで、女性たちがなびいてくるのだ。それはもはや魔法と言うしかない。
 その真吉が言った。
「かつて区役所に勤めていた人が町内会長らしいです。何年か前に定年になって、今は無職だというのですが、今でも区役所にいろいろ伝手(つて)があるんで、町内では頼りにされているみたいですね」
「何という名だ?」
「藤堂伸康(とうどうのぶやす)です」
「じゃあ、その人がその地区の中心人物ということだな」
「ええ。まあ、形の上では……」
「どういうことだ?」
「藤堂さんは、あまりご自分から前に出る方じゃないようです」
「でも、町内会長なんだろう?」
「それも、みんなに言われて仕方なく引き受けたようですね。区役所に勤めていたなんて、地域の住民にとって、こんなに便利な人はいないですからね」
「そりゃそうだろうな」
「藤堂さんはすごく人がよくて、頼まれたら嫌と言えないらしいです」
「住民の先頭に立って苦情を言ったりするような人じゃないということだな」
「苦情ですか……?」
「例えば、の話だ」