日村は奥の部屋に行き、阿岐本に今の話を伝えた。
すると阿岐本は言った。
「ほう。真吉はたいしたもんだな」
「はい。自分もそう思います」
「町内会が二派に分かれているというのは、面白い話じゃねえか」
「面白いですか?」
「何事も対立構造があったほうが面白い」
阿岐本は時々、わざと難しい言葉を使う。
「はあ……」
「会ってみてえな」
独り言のように言う。
これは、何が何でも会いたいということだ。
「段取りをしましょうか?」
「そうだな。西量寺の田代さんにでも頼んでみるか……」
「ご住職に?」
「俺たちが突然、町内会に行っても、相手はびっくりするだけだろう。へたをするとまた、警察がやってくる」
「そうですね」
「田代さんに頼めば、何とかしてくれるかもしれねえ」
「わかりました。連絡してみます」
「電話で頼み事は失礼だ。会いにいけ」
「はい」
「俺はもう出かけねえから、稔に言って車を使え」
「いえ、電車で行きます」
「時間がもったいねえし、あまり人に見られちゃいけねえ。いいから、車で行きな」
「はい」
日村は頭を下げた。「ではお言葉に甘えさせていただきます」