“写真付き年賀状”の憧れ

実は私、本来は筆マメなタイプで、手紙を書くことは好きなほうだと思う。CMのキャッチコピーのようだけど、出す相手のことを考えながら一言を書くのは楽しい。今も誕生日プレゼントや請求書、領収書をクライアントへ送るときには、必ず手書きのメッセージをつけているほどである。

そんなマメおばさんがなぜ年賀状を書かなくなったのか。業者で印刷される“写真付き年賀状”に1つの理由がある。「年賀状を処分する」と先述したけれど、どこか後ろめたさがあるのは家族写真がプリントされているからである。主に結婚から始まり、妊娠、出産、成長の報告。眺めていると、本当に個性が滲み出ていて、脳内につい小田和正が流れ出す。中にはひとまわり年下の恋人との仲睦まじさを、写真付きで毎年報告してくる先輩もいる。

現時点で独身の私は、この“写真付き年賀状”に憧れがあった。いつか自分も作成すると疑わず「そのときはあのカメラマンに撮影してもらおう」と、プランだけは完璧。ただそれも実行されることはなく、干支モチーフのイラストデザインで年賀状を書いていた。一応、編集者としてのこだわりもあって、仲の良いデザイナーにオリジナルデザインを作ってもらっていた時期もある。

そしてこの10年間くらいは、アプリで年賀状を作成することが増えた。サスペンスドラマのように大袈裟に書くけれど、これが年賀状と私を遠ざけたのだ。「テレレレ! テレレレ! テーレー!(効果音)」

コロナ禍に同世代で、同じく未婚の女性と数年前にこんな会話があった。

「久乃は年賀状を書いていて、えらいね。ちゃんとしてる」
「いや、そんなことはないけど、もう私もやめるよ」
「私は離婚した瞬間から、書くネタもなくなってやめたけど」
「結婚していたときは、写真付きで送ってくれたよね」
「親戚に『子どもはまだか』と言われるだけで、途中から辟易していたけど」
「それな。年賀状のデザインをアプリで探すでしょ。あれ基本は“結婚しました”“子どもが生まれてすくすく育っています”の写真付き年賀状のテンプレートが、8割なんだよね」
「当たり障りのないデザインはあるけど」
「 “マンション買いました!” “独身復帰(離婚)しました!”とか、“海外移住しました”とか、女の生き方を固定しないタイプ、あったら楽しいよね」
「確かにそれなら年賀状、書く気にもなる」
「あと独身だと、年賀状に使う写真もそんなにないじゃん。おばさんの写真なんてさー……、誰も見たくないだろうし。風景やごはんの写真もねえ」

年賀状デザイン一つに対する思いで、話が止まらなくなる。中高年女性は皆、(個人的に憧れの)上沼恵美子化したご意見版だなあとしみじみ。

さて年賀状卒業物語は続く。