ユザーン そうなんですよ。インドの人って「知らない」ということがなぜか言いにくいみたいで。

清水 ももこさん曰く、役に立ちたい気持ちが勝って、「知らない」が言えないんじゃないかって。

ユザーン インドに行き始めた頃は、僕もびっくりすることが多かった。電車に乗っているときにペットボトルの水をちょっと脇に置いたら、隣の人がいつのまにか飲んでたり。

レキシ それは「盗った」って言うんじゃないの?

ユザーン いや、盗ったつもりは全然ないんだと思う。最初はさすがに「僕の水を飲んでいるあなたは誰ですか」って聞いたよ。でも、インドではそれが普通だということが徐々にわかってきて。

レキシ ご近所同士でよくあった「ちょっとお醤油切れてるわ。貸して」みたいなのと同じ感覚かな。

ユザーン うーん、ちょっと違うかな(笑)。だいたい隣人に醤油を借りに行くことなんてなくない? あ、でも昔、教育実習の申し込みに行くときにネクタイの締め方がわからなくて、向かいの家の人にやってもらったことはあるな。

レキシ じゃあ、ユザーンにはもともとちょっとインド気質があったんだね。(笑)

 

怒っていなくても怒っているフリをする

清水 確かに、日本人にない概念だから「向こうでは普通」と言われたらそれまでだけど、よく水を勝手に飲まれて怒らないもんだね。

ユザーン いや、怒ることもありますよ。僕は普段、あまり怒りっぽいほうではないですけど、インドでは怒らないと物事が進んでいかないんです。「お釣りがないからって、お釣りと同額の商品を渡そうとするのはやめてもらえますか」とか「注文したのと違う料理を持ってきたあなたのほうが、なぜ『ノープロブレム』とか言ってるんですか」とか、いちいち怒らざるをえないことが続くから。

レキシ 言わなかったら、そのまま進むってこと?

ユザーン そう、押し切ろうとするんだよね。タブラ屋から、注文したのと違う音程の楽器を渡されて「このキーじゃないんだけど」と文句を言ったりしても、「いや、でもこれすごくいい音だぜ。これで大丈夫」とか言われたり。

清水 私、ダメかも。インド行ったら1日中ムクれてると思う。レキシさんは、全然怒らなそうな気がするね。さっきから私がいくら突っ込んでも、怒らないし。

レキシ あははは。そうね、確かに普段から怒らない。でもさすがに僕もインドで暮らすことになったら、人生の修行レベルかもしれない。