『ミュージカル ファントム』

 

若き演出家・城田優が挑む“ひとりの青年の” 悲しい人生

怪人“ファントム”が出てくるミュージカルといえば、センセーショナルな音楽で展開する『オペラ座の怪人』を思い浮かべる人が多いのでは。実はもうひとつ、同じガストン・ルルーの原作でもまったく異なるテイストと楽曲で展開するミュージカルが、世界中で(もちろん日本でも!)熱い支持を受けている。それが、アーサー・コピットとモーリー・イェストンによる『ファントム』だ。日本では2004年の初演以降、再演を重ねている本作。今回は俳優業の傍ら、演出家としても活躍中の城田優の手によって生まれ変わる。

19世紀後半のパリ。楽譜売りをしながら歌手を夢見るクリスティーヌ(愛希れいか、木下晴香)は、オペラ座のパトロンのひとりであるシャンドン伯爵(廣瀬友祐、木村達成)に見初められ、同劇場でのレッスンへと向かう。ところが新支配人の妻で名目上のプリマドンナ、カルロッタは、可憐で美しい歌声をもつクリスティーヌをやっかみ、衣裳係にしてしまう。そんななか、“オペラ座の地下に住む幽霊”として身を隠していたファントム(加藤和樹、城田)は、偶然、クリスティーヌの歌声を耳にする。亡き母の声をクリスティーヌに重ねたファントムは、思いきった行動を起こす。

本作の大きな魅力は、なんといってもファントムの人物造形だろう。もちろん、クリスティーヌを救うためにオペラ座の地下に連れて行くこと、仮面の下の顔をクリスティーヌに見られて絶望すること……などの流れはここでも同じ。だが、これまでエキセントリックにしか見えなかったファントムの行動が、本作ではそこに至る理由とともに丁寧に描かれる。そして根底に流れる、亡き母と音楽芸術へのひたむきな想い。叙情的で美しい楽曲の数々に身を委ねるうちに、観る者はいつのまにか“ひとりの青年”の悲しい人生に引き込まれてゆく。

ファントム役の城田は、近年は舞台で着実に研鑽を積み、18年ついに菊田一夫演劇賞を受賞。今回の公演では、若き演出家としての着眼点に注目が集まりそうだ。そのほか、クールで哀愁あるたたずまいが持ち味の加藤や、元宝塚トップ娘役で、そのアイドル性によって根強い人気を誇る愛希、高い歌唱力で抜擢が続く若手ホープの木下ら、豪華キャストが勢ぞろい。この布陣で贈る新しい『ファントム』の本番を、楽しみに待ちたい。

 

ミュージカル
ファントム


原作/ガストン・ルルー 脚本/アーサー・コピット
作詞・作曲/モーリー・イェストン 演出/城田優
出演/加藤和樹・城田優、愛希れいか・木下晴香、
廣瀬友祐・木村達成(以上Wキャスト)、岡田浩暉ほか
☎0570・077・039(梅田芸術劇場) ※大阪公演あり

 

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『常陸坊海尊』

不思議な伝承に、戦中戦後の学童疎開を重ねて

今年4月にKAAT神奈川芸術劇場の芸術参与に就任した劇作家・演出家の長塚圭史が、戦後を代表する劇作家・秋元松代の名作を手がける。常陸坊海尊(ひたちぼうかいそん)は、武蔵坊弁慶らとともに源義経に同行したものの奥州平泉で逃亡。その後、不老不死の身となり、源平合戦の様子を人々に語って聞かせたとされる伝説の人物だ。

秋元はその不思議な伝承に、戦中戦後の学童疎開と人間の業を重ね合わせて描いた。今回の長塚版では、本作が発表された1964年当時のにおいを知る白石加代子を主軸に据え、新たな視点を加えて再構築。さらに、国内外で活躍するダンサーの平原慎太郎が劇中の動きの振付を、音楽家・田中知之が劇中曲を担当するのも話題だ。

 

常陸坊海尊​

12月7~22日(7、8日はプレビュー公演)/神奈川・KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉
作/秋元松代 演出/長塚圭史 音楽/田中知之(FPM)
出演/白石加代子、中村ゆり、平埜生成、尾上寛之ほか
☎0570・015・415(チケットかながわ) ※兵庫、岩手、新潟公演あり

 

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『カリギュラ』

革命をもたらす王か、それともただの殺人者か

人間社会にはびこる“不条理”をテーマに文学活動を続けたノーベル賞作家のアルベール・カミュ。本作はローマ帝国皇帝カリギュラを主人公に、その命題を盛り込んだ名戯曲だ。舞台はローマの宮殿。愛し合った妹が急死した日に姿を消したカリギュラは、3日後に戻ってくると態度が豹変していた。臣下や資産家を気まぐれに殺し、乱痴気騒ぎを続けるカリギュラ。残った臣下たちは皇帝の暗殺計画を進めるが……。“革命をもたらす王か、それともただの殺人者か”。手練の演出家・栗山民也のもと、不可能なものを探し求めて疾走するカリギュラに、菅田将暉が満を持して挑む。

 

カリギュラ​

11月9~24日/東京・新国立劇場 中劇場
作/アルベール・カミュ 翻訳/岩切正一郎
演出/栗山民也
出演/菅田将暉、高杉真宙、谷田歩、橋本淳、秋山菜津子ほか
☎03・3490・4949(ホリプロチケットセンター) ※福岡、兵庫、宮城公演あり