2013年、取材時の浅香光代さん(撮影:滝浦哲)
俳優の浅香光代さんが12月13日、すい臓がんのため亡くなりました。享年92。14歳から座長として女剣劇の最盛期を牽引した浅香さん。「婦人公論」の取材にも数多く応じてくださいました。最後に登場したのは、2014年2月7日号。85歳の時の衝撃告白は世の中を驚かせました。ご遺族の許諾を得て、話題を呼んだインタビューをWEBにて公開します(聞き手=水口義郎 構成=南山武志)

70年もの間座長を務め、今なお現役の浅香光代さん。実は若いころ、大物政治家と恋に落ち、未婚で2児の母になっていたという。亡き恋人と、息子への思いとはーー

──────

許嫁がいたのだけれど

あたしが浅香新八郎・森静子が主宰する「新生国民座」に入ったのは9歳。その当時、親同士が決めた許婚がいたんですよ。良ちゃんていって、関東大震災の時焼け跡で泣いてる赤ん坊をうちの母の姉夫婦が見つけて、養子にして育てた子だった。その良ちゃんが、兵隊に取られる時、「これでお別れだ。結婚はできないけど、いい役者になるんだよ」と話すわけ。あたし思わず、「でも良ちゃんの子どもができたらどうするの」って。

こう見えて〈おぼこ〉でね。生理が来たのも18の時だったのよ。結婚する男と女が一緒にいたら、自然に子どもができるんだと信じてた(笑)。良ちゃんは心底驚いて、あたしの頭をぎゅっと抱きしめ、「こんなかわいいことを言う娘がいるんだ。子どもはできないから安心していいよ」って言ってくれたっけ。それが初恋? いやいや、恋愛感情が芽生えるってことはなかった。年も10歳くらい違ったし、まあ兄妹みたいなものよ。

初めて好きになった男は、若いお医者さん。戦争中、14歳で自分が座長になって劇団を旗揚げするんだけど、舞台でしょっちゅう足なんかを怪我してね。紹介されて行った病院の先生に惚れちゃったわけ。若いのに腕がいいって評判だった。