「あの国の観光客がダメにしている」論に乗ってはいけない
ただし、「オーバーツーリズムの原因は中国人である」などと決めつけることは間違っています。一国が経済成長を果たし、その国民が世界中を闊歩するようになると、世界各地で軋轢を起こすようになることは世の習いだからです。
ですので、外国人が日本をダメにしている、という安易な論調に乗ってはいけません。
アメリカ人は1950、60年代に、フランスやイタリアに観光に出かけ、傍若無人に振る舞ったことで、「醜いアメリカ人(アグリー・アメリカン)」として嫌われました。
その後は経済力を付けたドイツ人と日本人が、「アグリー・ジャーマン」「アグリー・ジャパニーズ」と呼ばれました。バブルのころは、日本人観光客もパリの高級ブランド店などで《爆買い》を行って、顰蹙を買いました。
もちろん、受け入れ側のキャパシティをはるかに超えて増大する中国人観光客への対応は必要です。しかし、それは「中国人観光客が悪い」という話では決してありません。観光「立国」を果たすには、世界の誰をも受け入れた上で、その状況をコントロールする、という構えが重要なのです。
※本稿は、『観光亡国論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
『観光亡国論』(著:アレックス・カー、清野由美 中公新書ラクレ)
右肩上がりで増加する訪日外国人観光客。京都、富士山をはじめとする観光地へキャパシティを越えた観光客が殺到し、交通や景観、住環境などでトラブルが続発する状況になっている。本書は作家で古民家再生をプロデュースするアレックス・カー氏とジャーナリストの清野由美氏が、世界の事例を盛り込みながら、建設的な解決策を検討する一冊。真の観光立国を果たすべく、オーバーツーリズムから生じる問題を克服せよ!