最後の最後まで裏切られていたんだ

夫の闘病中、知美さんは職場の上司に事情を話し、自宅でできる仕事に切り替えていたが、それでも仕事が手につかない。食事ものどを通らず、心身ともに疲れ果て、葬儀の時には10キロ近くも痩せていた。

「でも、確定申告の時期と重なり仕事が忙しくて。おかげで泣いている暇などありませんでした。子どもの笑顔に安らぎを覚え、この子のためにがんばろうと思ったり。それに夫の死後、パソコンを開けたらエッチなサイトや出会い系に頻繁にアクセスしていた形跡があって。そればかりか病院の看護師さんとも関係があったようなんです。そういえば彼女は葬儀に来て泣いていたなと思い当たる節もあり、最後の最後まで裏切られていたんだと、情けないやら悔しいやら」

その後、懸命に働きながら育てた息子は現在17歳。ゴルフに夢中で、ジュニア大会で優勝するほどの腕前だという。

「夫の代わりに面倒をみてくれているのが、大学卒業後プロの道に進んだ夫の同期。つまり私の先輩なのですが、彼も3年前に離婚して独身なのです。最近では息子と3人でコースに出る機会も増え、このままいくと恋に発展しそう。先日、お墓参りをした折に『もしかして、あなたが彼と引き合わせてくれたの? 当然の義務よね~』と話しかけてきました」

やっと迎えた人生の春。溌剌とした笑顔が印象的だった。

 


ルポ・夫の死を乗り越えて

【1】浮気夫ががんに。介護生活で10キロ痩せた妻を待っていたのは
【2】第二子を妊娠中、夫が交通事故に──。われを失った日々
【3】10年の介護が残した家族の絆という心の遺産