突然訪れた別れ、あるいは長患いの末に――。夫との死別という大きな節目を、どう乗り越えればよいのだろうか。心筋梗塞で重い障害を負った夫を見送った恵子さん(仮名)に残されたものは――。(取材・文=丸山あかね)
「お疲れ様でした」と労られて
10年にもおよぶ介護の末に夫を見送った佐久間恵子さん(72歳)は、
「正直な話、夫が死んだ時、これで病院通いから解放されると思いました。葬儀でも周囲の人たちから『お疲れ様でした』なんて労られて、立派にやり遂げたという達成感を覚えたほどです。夫も苦しかったと思いますが、家族にはそれぞれの人生というものがありますから。
私には20歳の時に生んだ長女と2歳離れて生まれた次女がいるのですが、母親に介護を任せきりにするわけにはいかないと、2人とも結婚に踏み切れずにいたんです。そんなこともあって『一体、いつになったら死んでくれるの?』と、植物状態になった夫に問いかけてしまったこともありました」
と言って首をすくめた。
4歳年上の夫が心筋梗塞で倒れたのは恵子さんが43歳の時。深夜に心臓が痛いとうずくまる様子を見て、ただごとではないと救急車を呼んだ。
「軽い心筋梗塞だということで、1週間ほどで退院し、日常生活に戻ることができました。でもそれが悪夢の始まりだったんですよね」
2年ほど経過したある朝のこと。
食事の支度をしていた恵子さんは目の前にふらりと現れた夫を見てギョッとしたという。
「パジャマの上に背広を着てポカンと立ち尽くしていたのです。よく見ると失禁していて、顔が歪んでいることにも気づきました。脳梗塞だと察して、慌てて救急車を呼び、命は取り留めましたが、脳の左が詰まっていたため、右半身に麻痺が残りました」
リハビリを経て3ヵ月で退院するも、半年後に再び心筋梗塞を起こして入院。バイパス手術を経て退院したが、約1年後にまたもや脳梗塞に襲われ、言語障害が残った。