「一貫して感じ取れるのは、いまだ定まらない未来に向けて、そのつど誠実に奮闘する松永先生たちの姿だ」(写真提供:Photo AC)
厚生労働省が発表した令和3年度の医療施設調査によると、全国の医療施設は 180,396 施設で、前年に比べ 1,672 施設増加しているとのこと。20床以上の病床を有する「病院」は33 施設減少している一方で、19床以下の病床を有する「一般診療所」は 1,680 施設の増加となりました。「一般診療所」が増える中、小児科医として開業した松永正訓先生が、その実態を赤裸々に明かした『開業医の正体』が発売中です。同書を手に取った、”病理医ヤンデル”こと市原真先生いわく「成功だけを選び取った回想録ではない」とのことで――。

どんな本だと思う? 

松永正訓先生はいい。おすすめだ。医師、小児外科医、開業医である松永先生は多数の書籍を上梓しており、プロフィールに作家と付け加えても違和感がない(御本人はどうもそういう名のりはされていないようであるが)。題材、思索、筆力・構成力などどれも美しく、気配りが行き届いており、医療従事者としての視座を十二分に活かしてさまざまな題材に透徹した視線を投げ込んでおられる。そして何より「へんにニヤニヤしていない」のがいい。安心して家族や知人にすすめられる作家である。

その彼が今回、『開業医の正体』。

未読の人は想像してほしい。どんな本だと思う? 

私は……正直に申し上げると、最初はちょっとだけ「情報商材みたいなタイトルの本だな」と感じた。今にして思うと巷間にあふれる「※※の正体」と題された雑文のレベルの低さに引っ張られていた。カストリ週刊誌やらネットのコタツ記事やらが、人目を引くために正体とか裏側とか本音とかいうタイトルを乱発するせいで、本来の「正体」の語義を見失ってしまっていた。