おばさん、猛勉強
今まで出演したラジオのほとんどは、生放送。“ラジオ初めて物語”のようなおばさんを、突然、失敗の効かない電波の波に放り投げるのかとザワザワ。要は緊張していた。
ラジオに出演した当初、1番に感じたのは「あれ、こんな自由な感じでいいのか……?」だった。生放送の番組にはディレクターさんが作ってくれる台本がある。そこに書かれた質問内容を確かめて、本番に臨む。私は編集者として動く時だけは、5分刻みの香盤表を作るような、普段の自堕落さからは考えられない几帳面さがある。しゃべることが決まっていれば安心できると、質問にぎっちりと回答を記入してメール返信をしていた。
「ありがとうございます。でもこの通りに進むことは、あまりないですからね」
「え、あ、そうなんですか?」
そう言われて、いよいよ現場へ。ディレクターさんの言ったことは、ごもっともでほぼ台本通りには進行せず、即興でパーソナリティーさんたちに聞かれることに応えるまま、番組は進んだ。そんな最中、脳内では「考えてきたあれも言わなきゃ、これも言わなきゃ」で焦るばかり。30〜40分程度の出演時間は宙に浮いているような状態で、終わっていった。疲れた。緊張していた私を察したのか、スタッフさんからこんなことを言われた。
「おつかれさまでした。おしゃべり、面白かったですよ。これから小林さん、いろいろラジオに出演される予感がするのでお伝えしておくと……もっと、自分のことを“ドラマを何千本と見た”とか、オーバー気味に自己紹介したほうが、リスナーに伝わりやすいです。あと相槌は“ウン“ではなくハイ”にしたほうがいいですね」
真意はわからなかったけれど「ああ、失敗したのか私」と落ち込む。ただこれは私にとって起爆剤。よく褒められて伸びるタイプだという人もいるけれど、私はそれだけだと明らかに調子に乗るので、若干の叱咤があったほうが効く。まだ出演は続くのだと、スタッフさんからの話を受けて、私のラジオ猛勉強が始まった。
専門のトレーニングを重ねたアナウンサーではなく、あくまで肩書きのひとつとしてラジオで話している人をピックアップして、片っ端から聞いた。1日に何度もAirPodsの充電を繰り返し、時には必要そうなことをメモする。メモからどうしても離れられないのが、昭和生まれスタイルだろうか。その結果、
・ゆっくり大きく口を開けて話す
・小難しい言葉は避ける
・収録中もリスナーに見られてるつもりでリアクションを大きく
・想定される質問以外の小ネタも考える
・パーソナリティーさんのことを事前にある程度は調べて、知る
(長年のインタビューで培ったスキルを発揮する)
・リスナーが「何をすれば喜んでくれるのか」をよく考える
・事前に仕込んだネタを話さなくても気にしない
こんなことを話す際のルールとして編み出した。特にリスナーさんを喜ばせることは重要だと思っている。よく考えたら20代で編集部員になった頃、先輩に「紙(雑誌)の向こうの読者がどうすれば喜んでくれるのかを考えろ」と指導を受けた。いまだに馬鹿の一つ覚えのように、遂行している。これが紙からラジオに変わったと思えばいい。そう考えてスタジオへ向かうようになった。