実の家族を受け入れられない人は、実際どのように適度な距離を保っているのだろうか。血のつながりがあるからこその責任や罪悪感、諦念もあるはずだ。当事者に話を聞いてみると──。麻矢さん(仮名)は、ずっと妹が苦手だった(構成=田中有)
体に触ることもできないくらい妹が嫌いに
物心ついた時には、きょうだいが嫌いだった。今となっては理由もわからない――。取材を進めると、こう話す人に何人か出会った。都内の大手百貨店でバイヤーをしている麻矢さん(31歳・仮名)も、その一人だ。
「小学生の頃には、妹がいじったテレビのリモコンを拭いて使っていましたね。最後につかみ合いのケンカをしたのが中学の時。私の布団を踏んだ踏んでない、みたいな些細なきっかけだった気がしますが、詳しく覚えていなくて」
気がついたら、体に触ることもできないくらい妹が嫌いになっていた。なぜなのかを考えても、何しろほとんど記憶がない。それでも麻矢さんはぽつりぽつりと話してくれた。
昔から親戚の集まりで、ボーイッシュな麻矢さんと豊満でグラマラスな妹が見比べられ、「美香ちゃん(妹)のほうが絶対先に結婚するね」ときまって言われたこと。実家のある九州地方で、自分が落ちた国立大学の附属中学に妹が受かったこと。息が詰まる実家を早く出るため、遠方の国立大学を狙って2月まで受験勉強をしたのに、妹は推薦で都内の有名私大に早々と進学を決めたこと……。
「それから母に、『美香はかわいいけど、あんたは私に似てひどい顔だし、勉強もできないわね』とよく言われました。妹は私と違って、昔から要領がよくて。結婚して子どもも生まれたし、何でも私の先を行く。引け目を感じてしまいます」
麻矢さんが育った空気のなかに、“妹嫌い”の原因がほの見える。