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実の家族を受け入れられない人は、実際どのように適度な距離を保っているのだろうか。血のつながりがあるからこその責任や罪悪感、諦念もあるはずだ。当事者に話を聞いてみると──。凜さん(仮名)が一人暮らしを決めた理由は(構成=田中有)

きっかけは飼い猫が病死したこと

凜さん(70歳・仮名)は、1年半前から一人暮らしをしている。それまでは近くのマンションに長女、次女と暮らしていた。現在、凜さんは44歳の長女と「親子の縁を切った」状態だ。

もとは家族5人で暮らしていた。長男の結婚、夫との別居で女3人の暮らしが始まり、当初は気楽で楽しかったという。しかし4年前、長女が荒れだした。きっかけは飼い猫が病死したことだ。

「それまでも、学生時代に不登校を経験するなど、とても繊細な子でした。猫の死を境に、家族、とくに私への攻撃が始まったんです」

話はバブル崩壊の頃に遡る。夫が経営していた飲食店が潰れ、凜さんはうつ病で寝込んでいた。長男は独立して家庭を持ち、末っ子の次女はまだ小学生。長女は演劇の専門学校に通い、芸能プロダクションの門を叩こうとしていた。

しかし凜さんは長女に頼み込んで、いったん芝居への夢を凍結し、就職して家計を支えてもらった。ほかに選択肢がなかったのだ。

3年ほど経つと凜さんの体調も回復し、パート代の一部を次女の学資として貯めていけるまでに。長女は会社を辞め、アルバイトをしながら演劇や落語、舞台美術などに細々と関わっていたという。