怒りに我を忘れて罵り合い…
「私は申し訳なく思い、彼女が勉強したいならと、できる限りサポートしてきました。でも娘のなかには、家族の犠牲になったという怒りがずっと眠っていたんですね」
当時から長女はスイッチが入ると、「私の時間を返せ」「こんな家庭に生まれたくなかった」と、顔を歪めて凜さんに言葉をぶつけた。
同時期に夫との離婚話が進行中だったのだが、「お母さんにも原因がある」と夫の肩を持つ発言をする長女に、凜さんも猛反撃。二人でテーブルを叩き、あたりにあるモノを投げつけ合う。一度だけ長女からビンタをくらったこともある。
「殺し合いになるんじゃないかと思うくらい、私も娘も怒りに我を忘れて罵り合いました」
凜さんが限界を感じたのは、長女が「自殺する」と言った時だ。自分が殺されるより最悪の事態に、思わぬ言葉が口をついて出た。
「……親子の縁を切ろうか?」
翌日、長女から「お母さんが縁を切るって言ったんだから、出て行ってよ」と言われた凜さん。次女はすでに、姉の暴言や激しいケンカに耐えきれず家を出ていた。
凜さんはその後、近所に部屋を借りた。たまに長女とスーパーで顔を合わせることもある。
「最近どうしてる? くらいの会話はします。でも娘からは、『家族の話はナシだからね』って」
凜さんは現在、ニット帽を編んで家計の足しにしている。結婚前の夢だった服飾デザイナーに一歩ずつ近づいていくようで、毎日が楽しい。
「やっぱり、子どもとの関係は特別なもの。ただ私はその気持ちが強すぎたのかもしれない。離れてみると、案外風通しのいい関係ですね」
今のところはこの暮らしを満喫するつもりの凜さんである。
***
登場した4人はみな、肉親との関係に悩みつつ、完全に縁を絶ち切ってはいなかった。時間が経つにつれて、関係は変化するかもしれない。しかしすっぱり絶つことは難しい、とつくづく思った。