(構成◎藤野さくら 撮影◎米田育広)
「9.11」の実話がミュージカルに
安蘭 12人のキャストが100分間ノンストップでお届けするミュージカル。全員で約100人もの登場人物を演じ分けるのよね。いま稽古の半ばで、やっと通し稽古が終わったところ。みゆちゃん(咲妃)はどうだった?
咲妃 「やっとここまで来られた」と、少しだけホッとしました。セリフや歌の多さはもちろん、自分たちでセット転換までやるので、最初はもう無理なんじゃないかと思いました。(笑)ここからが作品を掘り下げていく、本当のスタートです。
安蘭 私も、通し稽古が出来たらきっと泣くわと思っていたけど、実際にやってみたら、感動に浸っている場合じゃなかった(笑)。まだまだ超えなければいけない山が、目の前にそびえているのを思い知らされた感じ。
咲妃 内容も他にはないものですよね。2001年の同時多発テロ、「9.11」での実話がベースになっていて。アメリカ領土に着陸できなくなった38機の飛行機が、カナダのニューファンドランド島の空港に緊急着陸したことから始まる物語。
安蘭 7千人もの乗客が、人口1万人の小さな町に降り立ったのよね。人種も出身もさまざまな人たちの5日間が、スピーディーに描かれる。私は2018年にブロードウェイで観ているのだけど、「9.11」の悲しい部分だけじゃなくて、笑いあり涙ありのドラマになっていて面白かった。これぞブロードウェイらしい表現だし、“強さ”だと感じたな。
咲妃 私は初めてニューヨークに行った時、空港から真っ先に向かったのがグラウンド・ゼロでした。小学生の時に「9.11」が起きて、当時から何かがずっと心に引っかかっていたんです。やっと訪れたその場所は、巨大な噴水の周りに追悼のお花が挿してあって、不思議なエネルギーに満ちていました。「私たちはこれを乗り越えるんだ」というような、前向きなパワーすら感じられて。とうこさん(安蘭)がおっしゃっていたように、これも“強さ”ですよね。
安蘭 分かる気がする。
咲妃 そういう感覚が、この作品の素晴らしい楽曲からも感じられて、お稽古の行き帰りに聴いていると、うわっと涙がこみ上げてくることがあります。テーマはシリアスだけれど、この作品が持つ明るくて強いパワーに、私自身も支えてもらっているような感じがしますね。