コンプレックスを味方に

國學院大學に入ったのは45歳の時でしたが、実は大学へ行くまでの前段階があって、私は高校卒業認定を取得することからはじめました。最初に神道を学びたいと周囲の人に打ち明けたとき、今までの社会の経験を活かして、最初から大学院に入学すればいいという意見がほとんどでした。確かにそういうやり方もあるなと思いましたが、自分的には不安でした。基礎が足りないことは自分が一番よくわかっていたので。

もう一つ、私は高校を中退しているというコンプレックスを抱えていました。私は幼い頃から歌手になりたくて、中学の時に受けたオーディションで織田哲郎さんと出会いました。20歳で上京するまでは、アルバイトをしながらボーカルトレーニングなどをする日々でしたが、1995年に発表したデビュー曲「夢見る少女じゃいられない」がヒットし、その後も曲に恵まれ、たくさんの方々に支えられて今日まで来ました。ですので歌手人生においては感謝しかありません。

でも一人の人間としては置き去りにしてきたものがあると思っていました。しかもその想いは年を重ねるごとに深くなっていき、結婚しても、お母さんになってからもずっとずっと、いつか高校を卒業したいと考えていました。その一方でどうせダメだ、今更ムリだと思っている自分もいて……。そんな私の背中を押してくれたのが神道に対する興味でした。学びのテーマをみつけ、やっとその時が来たと感じました。せっかくの機会だから、みんなが高校で学んでいるはずのことを知らないから理解できないのだというようなことだけは避けたかった。だから卒業認定試験を受けることからはじめるというのは遠回りのようでいて、一番の早道なのではないかと思いました。

そうと決めたらコンプレックスは大きな味方になってくれました。30年ぶりに教科書を開いた時は戸惑いに溢れていましたが、わからないものはわからない。これは独学では無理だと潔く認めて家庭教師を頼むことにしました。「自分はダメだ」で終わるのではなく、「最初からできる人はいないんだから、今から一から学ぶんだ」って素直に思うことができてよかったです。