御曹司との身分違いの恋

この原稿を執筆している時点では、『光る君へ』の物語はまだ序盤。紫式部(ドラマの役名は、まひろ)と藤原道長の純愛が切なさを掻き立てる、といった展開です。「なんだ、光源氏は出ないのか」などとがっかりしていたのですが、回を重ねるごとに、道長役の柄本佑さんの涼やかな貴公子ぶりに目を奪われています。今後、権力を握るにつれて、道長自身も徐々に変化していくのでしょう。

番組の公式サイトに「変わりゆく世を、変わらぬ愛を胸に懸命に生きた女性の物語」とあることから、まひろはこれからもずっと道長への想いを胸に秘めながら生きてゆくのだと思います。

御曹司との身分違いの恋は、少女まんがや韓流ドラマの王道パターン。史実に反するという批判もありますが、『源氏物語』に出てくるエピソードをさりげなく散りばめるなど、ドラマとしての見応えは十分。脚本家・大石静さんの紡ぐフィクションとして、このラブストーリーを見守りたいと思います。

ドラマのまひろは、まだ何者でもありませんが、のちに世界の文学史にその名を残す存在となるのは、みなさんご存じのとおりです。とはいえ、「紫式部って、どんな人?」と問われて、スラスラと答えられる人は少ないのではないでしょうか。

嵐山にある紫式部の歌碑

『源氏物語』の作者で、類まれな才女。百人一首に入っている「めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな」という和歌を詠んだ――。

このあたりは学校で学んだ記憶があるのでは?

歴史好きの方なら、当時の最高権力者・藤原道長の娘で、一条天皇の中宮である彰子(しょうし)に仕えていたこともご存じでしょう(『光る君へ』の設定では、想い人の娘に仕えて、愛しい人の成功を陰で支えることになります。なかなか複雑ですね)。

さらに、「どのように仕えていたか」ということまで具体的に答えられれば、かなりの古典通、歴史通といえるのではないでしょうか。

ですが、専門家でもない限り、当時の社会のありようをはっきりとイメージすることは難しいように思います。テレビや映画の時代劇でも、平安時代が描かれることはほとんどありません。その意味で、今回の『光る君へ』は貴重な機会といえます。