私たちの声はよく似ているのでどれも混ざる、来年も私たちは五人でいるだろう――。
 同じ高校に通う仲良し五人組、ハルア、ナノパ、ダユカ、シイシイ、ウガトワ。同じ時を過ごしていても、同じ想いを抱いているとは限らない。少女たちの瞳を通して、日常を丁寧に描き出す連載小説。

〈前回はこちら〉

9 シイシイ

 自分の噛む音は口の中に響いて、あちらの噛む音は部屋に響く。妹と二人でご飯を食べるなんて久しぶりで、見張り合って向かい合うわけでもないけど、口もと手もとに力が入る。学校での昼ご飯も、私は人の前で食べるのが苦手だからパンが多い、一口ずつ細かくちぎって口に入れるから、大きなおかずが入ったようなパンは選べない、大口開けたくない。ダイエット?と聞かれるけど、人の前だと食欲もなくならないか、みんなよくあんな無防備に食べられるものだ。パパから続報が届く、通話にして私のスマホをスピーカーにしてテーブルに置く。病院に運ばれたママは入院して手術をするらしくて、そんなに心配することはなくて、でも入院の荷物はいるから二人で荷造りしといて、パパがまたすぐ家に取りに戻るからとのことだった。病室からで、ママも通話に参加して、作ってる途中で倒れちゃって、おかず一品でごめんねと気にしていた。
 妹はママママ心配、私たちのご飯とかどうでもいいんだよーと騒ぎながら、自分のスマホは通話中じゃなく自由なので、ずっとスマホをいじっていた。私は人を励ますやり方も分からず、うんうんとだけ会話の合間に挟んだけど、あちらに聞こえているか、参加できているかは分からなかった。切ってから、「見えてないからって適当すぎ。心配とか言って、目はスマホだったじゃん」と言えば、「それなら口はママに使ってたし。詩花なんて黙ってただけじゃん、私より体使ってない。何かしながらでもいいもんなんだし、言葉は尽くしたんだから。見てるの私と詩花だけで、別に観客がいるわけでもないんだから」と妹はまたスマホをいじる、懸命に画面をというよりは、心ここにあらずというポーズ。
 どちらも、自分の体の方が相手より価値あるので重い、あなたがペアで心も重い、という怠い動きで皿をキッチンに運ぶ。「ママってスポーツバッグみたいなんないよなー」と、独り言か問いかけかどっちにでも取れる妹の口調に、「見たことないね」と私は返事する、家族の一員の入院準備という、共同でやらなければ気が滅入るような作業なので、ここでは黙っている方が得策でない。「トランクでもないよね?」「病室っていうのにそんな行ったことないから。でもドラマとか、病院にトランク持ってってる人いる?入院の瞬間っていうのが、ドラマで映らないだけか」「大きい紙袋だね」
「ママのパンツの置き場所ってほんとに分かんないかも。この干してるやつしか持っていけないかも」「返信来ないの?」「まあ寝てるか検査とかかなあ。靴下はもう、私のやつ入れとこうかな。パンツはそうはいかないけど。ママより足大きいけど、私たちは同じ大きさだけど」「仲良かったら靴の貸し借りできるだろうね。まあ靴は嫌か、広がるし型つくし。服も貸しあえたら倍になるけど」「貸し借りはあんま意味ない。詩花の服って、もう顔で着てるっていうか、服そんなにだけど顔でねじ伏せてるよね」と妹が言い、私は一応一点は褒められたと思っておく。「瑠麻はママに気に入られてるんだからさ、仲良しなんだから」「だから何。詩花がコミュニケーション取れない分、私に来てるだけでしょ。でもママがパンツどこに入れてるかとか知らないから」
「パパママの部屋のクローゼット開けてみる?泥棒っぽい?」「悩むなー。変なもん出てきてもなー。クローゼットの横のタンスっぽくない?そこになかったらやめよ」となり、二人で行く。引き出しを開けていく、服だけがある。こんなに畳んで入れられて、私の洗濯物は今ではママの手を離れ、取り込むところまではやってもらえるけど、後は自分で、私は部屋に山となったのの上に積んでいき山は高さを増すばかりとなっているので、畳まれた服に私は不思議がるばかり、またすぐに広げられ皺がすぐつくものを。ママが結婚式の時に使ったティアラとネックレスの入った箱があり二人で懐かしがる。ティアラの方が人気で、負けてネックレスになった方は、上手くバランスを取りながらそれを頭にのせてティアラとした。冠で頭をこんなに自由に動かせなくて、姫や王子はどうするんだろう、気品ある者いつも不動で前を向けという教えなのか、というようなことを思ったものだ。
 私たちにはそんなにお泊まりの経験もなく、旅の時何があればと後悔するのかピンとこない、入院なんかも旅だろう、旅とは不便をしに行くことで。「化粧水乳液とか欲しいよね?この瓶かな、もうそういう時美容液は諦めるよなー」「ママの洗顔さあ固形じゃん。持っていけない」「でも洗顔って欲しいよなー」と妹は自分の部屋から籠を持ってくる。「これ試供品入れ。雑誌の付録とかママにもらったのとか貯めてる」と言い、取り出していく。「私ママにこういうのもらったことない」と言うが聞こえなかった感じにされる。ヘアケアボディケア顔と、部位ごとに袋に分類されている、私にはできない技だ。私だって机を片づけなさいと言われ分類でもしてみようとするが、学校で使う物小さい物よく使う物など考えていくと、どれも同じ区分になっていって分け方分からず、引き出しは溢れ山積みとなっていく。「朝晩何回もの分はないな。試供品って洗顔少なくない?美容液とかばっか」「洗顔は何回か洗わなきゃ分かんないもんね、つるつるになる洗顔かどうか」
「まあママ病院で買うか、固形のを削って持ってくのも、使いたくないよねそんなん。パンツも買えるか、コンビニあるよね。キャミとかも欲しいか、でも下着の場所分かんないんだった」「私キャミは自分の分ギリギリしかないからあげれない」「私も余分ない。タンスからTシャツ持っていこうか。でも擦れるのか、でもキャミもTシャツも綿か、同じか」「これ二個ある、一個欲しいな」と私が試供品の、二つ綴りの乳液のパウチをぐねぐねさせていると、低い声で唸りながら妹はちぎって片割れをくれる、私は嬉しくてすぐ切り口から開ける。「えっ何で。まだメイクもしてるじゃん、詩花って物の価値が分かってなさそうで嫌なんだよね。せっかくあげたんだからちゃんと顔に塗って」と言われ、「におい嗅ぎたかったんじゃん」と鼻に近づけてから、もう開いてしまったのを袋の硬さを用いて壁に立てかけておく。
 口喧嘩だってそれは妹の方が上手く、こっちは言葉が出てこず困れば、舌打ちでもして物でも蹴ってするしかない。「外見って、周り次第過ぎて怖くない。変わるし、流行りとか人とかで、周りっていうのが不確かだから。そういう不確かなものって考える意味ないんだよね」と私が言うと、「まあ人の心を考えなくても人に接してもらえるくらいには、かわいいっていうのが守ってくれてるんじゃない。詩花って本当に、参考にならないんだよな、お姉ちゃんなのに、真似もできない」と妹は答えて、私も別に何かこの話で伝えたかったわけでもない。私の話は人との会話の撒き餌にもならない、ただ垂れ流し、思いつきで独り言、話術を磨こうと本を読みテレビを見ても、誰も私に乗り移ってきてはくれない。
 「妹は姉にがっかりできるからいいよね。それを姉に直に言うのも、尊敬したいのに残念です、みたいな顔で、姉が妹に言ったら親に、じゃああなたが教えてあげなさいよって言われるようなのをさ」「ママは、詩花にそんなことは期待してないんじゃない、姉とかそういうの」と妹は言い、何、私についてのどういう評価を、いつも二人で話してるの、と問えば答えがありそうな雰囲気だったけど、それは開けてはいけない箱だ。友だち同士だと、その箱を贈り物みたいに喜んで開け合う時もあるのだから、気楽な関係だ。私はたぶん信用ならないと思われてるので、秘密の箱は私には、友だちからもあまり回ってはこないけど。
 妹は液体のものは袋に入れて、綿棒なんかも持ってきて、何て便利な能力だ、何がどうなるか、誰が何を欲するかの予知能力、友だちの間でも重宝されるだろう、修学旅行の途中に班員に、あなたって本当に人のために何もしない、と諦められることもないんだろう、私だって、私と暮らしているのなんて嫌だ、とても不便だ。「服は畳んで入れなよ」と言われ、そういう発想はなかった、もう忘れていた。さっきもらって開けた試供品の袋が倒れる、床に少し垂れる、妹が気づいて「ああ」と声出し舌打ち、足の踏み鳴らし、袋を立てかけこぼれたのを指で拭っている、指に乳液が染み込んだだろうか、私は声出すが無視され、ほらまたがっかりされている。人の前では食べず喋らず、動かずいるしかないだろうか。大きな紙袋は娘たちの選んだ物で膨らみ、玄関に置かれ、私たちはそれぞれ自室に引き上げる。