母がコミュニティから退場するためには

同じ檀家だった本家のおじさんから呼び出された檀那寺の住職も、勝手なことをしたと叱責され、檀家をやめると脅されたという話も聞いた。そして住職は、「密葬」というのは仮だから「本葬」を行う必要があると言い出したという。

「あちゃー、という感じでした。住職に対して裏切り者め! という気持ちもありましたが(笑)、ここは腹をくくって、実家近くの寺の本堂で本葬と四十九日法要をすることにしました。あらためて、町内会やご近所にも案内を出し、近くのホテルに関係者を慰労する席も用意しました」

当日は100名近い参列者があり、大盛況(?)だったとのこと。

「地元のしがらみの強さに今さらながら驚かされました。早くに地元を離れた私たち姉妹が、軽い気持ちで家族葬にしたことは浅慮だったかもと、反省もしました」

「村八分」の残りの二分は火事と葬式だという。どんないさかいがあっても、火を消し、弔うのは全体の責任である。葬儀はそれほど村の大事だったということだ。

「他人に迷惑をかけちゃいけない、自分のことは自分で、という今どきの風潮に染まりすぎて、しがらみの強い村社会で生きてきた母の人生を否定してしまっていたのかも、と。二重に費用はかかったけど、母がコミュニティから退場するためには欠かせない儀式だったな、と納得もしました」

子どものころに見知った懐かしい人たちに久しぶりに接し、母へのお悔やみの言葉を聞きながら、幼いころを思い出し心が温まったというユミコさんだ。

 


ルポ 「新しい供養のスタイル」を選んだら
【1】母の思いを汲んだ家族葬。しかし、思わぬ抵抗勢力が
【2】夫が望んだ直葬と散骨。突然「いやだ!」という気持ちに…
【3】「俺、クリスチャンになる!」と夫。円満に離檀できた理由