お葬式は小さくしてね。呼びたい人もいないし
中国地方の実家で一人暮らしをしていた母親が倒れ、急遽、関西にある自宅近くの病院に入院させたユミコさん。(68歳・仮名=以下同)
「90歳過ぎまでかくしゃくとしていた母でしたが、歳には勝てず、娘のそばで最期を迎えるんだろうなと、本人もわかっていたようでした」
二人姉妹の長女だけに、母を看取ることは覚悟していたが、自分が喪主となって葬式をすることまでは頭になかったという。
「祖父母や父親の時は元気な母が中心になって葬式をあげましたから、私たち姉妹は参列するだけでよかったのです。母と同じようにはできっこないと思えて不安でした」
死期を悟った母親は、ユミコさんに「お葬式は小さくしてね。呼びたい人もいないし」と伝えていたという。
「20年前の父の葬式は、町内の顔役が仕切って、遠い親戚から町内会、仕事関係、趣味の会などなど、とにかく参列者が多かった。自宅での葬儀だったのに、遺族が小さくなっていたような記憶があって。あんなの無理って思っていましたから、ほっとしました」
それからしばらくして母が逝き、ユミコさんは妹と相談して、自宅近くの会館を予約し、近親者だけの家族葬をあげることにした。檀家としての務めを果たしてきた母親のこれまでを尊重し、檀那寺(檀家が所属する寺)の住職に連絡すると、「どこでも伺います」とのこと。総勢10名での小さなお葬式だったが、ゆっくり母を送れたことに満足していた。
ところが、逝去と、すでに葬儀を終えたという通知をめぐって事件は起きた。
「妹と相談のうえ、プライベートな感じが強い家族葬という言葉を避けて密葬ということにして、地元の主立った皆さんに連絡したんです。それから3日後のことでした。本家のおじさんから怒りの電話がかかってきました。家族で葬式をあげるとは何事だ、葬式は地域で出すもんだ! と、それはもうたいそうな剣幕で」