揺れる気持ちをなだめてくれたのは
直葬騒動の後はいよいよ散骨だ。散骨するには遺骨をパウダー状にし、海洋散骨の業者に依頼する必要がある。
「葬儀をお願いした業者さんがすべて手配してくれました。粉骨業者さんが遺骨を引き取って、粉骨後に届けてくれることに。遺骨は半年近く自宅に置いていましたが、いざ業者さんに引き渡すとなると、急にいやだ! という気持ちが湧き起こってしまい……」
頭では、遺骨に感情移入しすぎるのは無意味だとわかっていても、心をコントロールできない。「重い墓石の下に入るのはいやだ」「風に乗って飛んでいきたい」と言っていた夫の思いを果たそうと、散骨の手続きを進めてきたはずなのに。サキさんは、夫の遺骨に執着しているかのような自分の心のありように動揺していた。
「お墓や納骨堂なら、相手がお骨でも会いに行くという行為が成り立つと思うんです。散骨してしまったら、その場所しかよりどころがないというか。樹木葬でも粉骨はするんですよ。それでも、樹の下には夫がいると思えるのかな、なんて、散骨への不安ばかりが募ってきた」
そんなサキさんの揺れる気持ちをなだめてくれたのがペンダントだった。
「ネットでいろいろ検索して見つけたのが、小さなお骨をロケットペンダントに入れて、いつも一緒にいられるようにというもの。手元供養の一種なのかな」
淡い紫のアメジストの宝石の底部がカパッと開き、小さな骨片を入れられるようにしたペンダントを注文。粉骨する前に、そっと骨壺を開け、骨片を取り出した。
「なんだか秘密っぽくてどきどきしましたけど、ペンダントをつけるととても落ち着くんです。そのせいか、散骨も、自由に飛んでけ! ってエールを送るような気分で、すがすがしかった」
「散骨」「樹木葬」、専用のロッカーへの「納骨」に加えて、最近では火葬後、遺骨を持ち帰らず、墓も不要で最もシンプルな「ゼロ葬」など、埋葬の選択肢も増加の一途だ。それぞれに何かしらの葛藤が生じるものなのだと、思い知らされた。