今度は声を集める番

ところが東北学院大学と地元の出版社、「荒蝦夷(あらえみし)」からインタビューの依頼があり、これはもう受けるしかないと出かけました。「勝手に書いてごめんなさい」と謝ろうと。

けれど、お礼を言ってくれる人がいたんです。その方のお父さまは津波で亡くなったんですが、その時の状況はわからない。「それを想像してくれてありがとう」と言うわけです。これで僕は東北に行けるようになりました。

その後、『想像ラジオ』の文庫化に合わせて東北の書店を回りました。この時、平積みされた本のそばにあった、塔のような形の宣伝用資材が、本が発信しているアンテナに見えたんです。「今度はここに声を集めるんだ!」とひらめきました。

そこで新聞と雑誌の連載を経て本になったのが『福島モノローグ』です。お話を傾聴し、僕の言葉は一切省く。それによって語りの迫力が出ました。

『福島モノローグ』が出た頃は、国が支援から退き始め、ボランティアの数も少なくなっていた。

そんななかで、東北学院大学が再び東北に招いてくれた場で、『東北モノローグ』のアイデアを話して、『河北新報』と文芸誌に同じタイトルでそれぞれ内容の異なる連載が始まったんです。それをまとめたのが本書になります。

 

『東北モノローグ』(著:いとうせいこう/河出書房新社)