ラッパー、タレント、俳優、作家など多岐にわたって活躍中のいとうせいこうさん。2011年の東日本大震災をテーマに書いた小説『想像ラジオ』では野間文芸新人賞を受賞しています。その後福島で被災した人たちの声を集めた『福島モノローグ』を21年に出版。今回の『東北モノローグ』は、福島以外の地域の人たちの声、在宅被害者の人たちの思いも聞いたそうで――。(構成:内藤麻里子 撮影:本社・奥西義和)
当事者でない自分が書いていいのか
東日本大震災については、三回忌に当たる2013年に小説『想像ラジオ』を書き、10年後の21年に福島で被災した方々の声を集めた『福島モノローグ』を出しました。そして今回、それに続いて、福島以外の地域を含めた『東北モノローグ』を刊行できました。
初めて東日本大震災について書いたのは、12年、哲学者で作家の佐々木中(あたる)さんとの連作小説集『BACK 2 BACK』です。印税は寄付しました。実は16年ほどスランプで小説が書けずにいたのが、この時、なぜか書けたんです。
その直後、園芸家の柳生真吾さんに誘われ東北へ行きました。柳生さんが、被災地に植えた水仙の球根が花をつけるからって。この時の経験から『想像ラジオ』は生まれました。
でもいざ書き始めると、当事者でない自分が書いていいのかという問題にぶち当たって。小説だから、津波で亡くなった遺体の描写をしなければならない。遺族の方々を傷つけるんじゃないか、と。
けれど「やっと書けるようになったのに、これを避けたら終わりだ」と、1行1行に細心の注意を払った。だから誤解を避けたくて取材は断っていました。