人生の「宿題」を終わらせる

あれは私の人生の、宿題のようなもの。もう一度行って終わらせよう。年齢的にも最後の挑戦になるだろうと、2年ほど前から南極での研究費を獲得するための準備を進め、今回参加できることになりました。隊長としての仕事はありますが、副隊長や隊員たちと連携を取りながら自身の研究も進め、宿題を終わらせたいと思っています。

例の観測機器も、現在ではかなりハイテク化されたセンサーを搭載。海水温や塩分濃度などを計測するほか、その動きから生物粒子と非生物粒子を判別できるセンサーも開発中です。当時失くした、海水中でプランクトンが生成する有機物の粒子を2週間に一度、自動で集める測器も搭載します。

ほかに重要視している観測データは、海水のpHと二酸化炭素濃度。地球温暖化が進むにつれて大気中の二酸化炭素が海の表層に溶け込むと、本来は弱アルカリ性である海水が中性あるいは酸性へ傾いてしまいます。

これはもうひとつのCO2問題と言われていて、炭酸カルシウムで殻を作る貝などは、幼生で酸性化が進行した海水にさらされると死んでしまうことも。エビやカニの甲羅を作るキチン質も4割ほどが炭酸カルシウム。実際、アメリカ西海岸では牡蠣、アラスカではズワイガニの漁獲量に変化が出ており、北極海では以前から海洋酸性化がクローズアップされてきました。

近年はこうした観測データに加え、スーパーコンピュータで「未来にどのような変化があるか」を予測できるようになっています。ここに現地での最新の観測データがひとつでも加わると、予測結果の確度は格段に高まるのです。

スーパーに行けば北海道産のサケが減り、北海道周辺でブリが獲れるようになるなど、海の環境の変化は、読者の皆さんもリアルな実感をお持ちだと思います。私たちの研究結果はなにかと心配を煽ることになってしまいますが、できる限り警鐘を鳴らし、普段の生活を見直していただくきっかけを作りたい。

というのも、北極や南極周辺では、スーパーコンピュータを使った予測結果より、現実の地球温暖化のほうが遥かに速いスピードで進行していることがわかっているからです。約10年前には「2050年に北極の夏は氷がなくなる」と予測されていたのが、現場の観測結果からは「どうも2050年まで持たないんじゃないか」と言われている。

このように、実際に海氷の減り方などを観測で確かめることが大切で、私たち研究者が現地へ出かける必要があるのです。

さまざまな変化が地球規模でどう進んでいるか、それが将来の地球にどう影響を及ぼすのか確かめてきますので、隊の活動を見守り、応援していただけたら嬉しいです。