コロナの影響で仕事がゼロに。そこに母の病が

美佳さんは主に紙媒体で書いてきました。編プロや関係者からの紹介など、口コミで仕事を受けていました。なんとかつなでいましたが、業界の衰退とともに、仕事の単価と量は右肩下がり。コロナ前でも年収200万円弱と、「家賃がないから暮らしていける」レベルになっていたそうです。そこへコロナです。すべての仕事が止まりました。現場に取材に行けなくなり、予定していた企画は全てキャンセル。ウエブのライターはしていなかったため、仕事がゼロになってしまいました。

その後、母親が体の不調を訴え始めました。背中が痛いと言いますが、かかりつけ医に行っても病気は見つかりません。胆石の手術を以前したので腸に癒着があるせいだろう、との見立てでした。2022年の暮れにはいよいよ具合が悪そうでした。これはおかしいと、総合病院での診察に美佳さんが付き添うことに。大腸内視鏡で見て、どこも悪くないと言う医者に、「CTを取ってください」と強く直談判。CTと、別の病院でPET-CTの検査もしてもらいました。結果、膵臓がんステージⅣと判明しました。2023年春のことです。

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「やっぱりね、って思った。母親も前から膵臓じゃないかって言ってたし。もっと早く、私が付き添っていたら良かった。母親だけだと、医者に強く言えなくて、ちゃんと検査をしてもらえてなかったのよ。医者はきっと、高齢者だと、病気を見つけたくなかったんだな。治療費がかかるし、膵臓がんは治らないし」

そこからは、さすが取材記者です。セカンドオピニオンを取るため、人脈を駆使して、名医を探し、アポを取りました。主治医から告知を受けたその日に紹介状を書いてもらい、1週間後には別の総合病院にセカンドオピニオンを聞きに行きました。「抗がん剤も苦しいから、ボクなら治療しないかも」と言う医者と、何が出来て何は不必要か、母の治療計画を相談しました。

膵臓がんは、余命は長くはありません。母は繊細な人で、生きる気力を失ってしまいそうでした。抗がん剤の種類も限られます。美佳さんが励まして、1クール1カ月半の抗がん剤の通院治療を、5月下旬から始めました。もちろん美佳さんが付き添いました。

『老後の家がありません』(著:元沢賀南子/中央公論新社)