同居家族が介護する場合の介護サービスの使いにくさ

介護サービスを受け始めたことで、美佳さんが一人で担っていた負担は、少し軽減されました。とはいえ、使い勝手の悪さも痛感しました。たとえば父母それぞれの家事支援ですが、掃除は彼らの個室だけ。風呂もトイレも居間も廊下も、美佳さんが共同で使う場所は支援対象じゃありません。「手が足りないから、掃除を頼みたいのに」。風呂やトイレこそ掃除してほしいところです。

買い物も食事も、してくれても父母の分だけです。100%被支援者に関わる部分だけ、という決まりだから仕方ありません。でも、買い物なんてついでなのに、食事なんて3人分でも1人分でも作る手間は変わらないのにと、もやもやします。美佳さんは自分の食事は、「お茶漬けでいいか」と軽く済ませがちです。同居家族が介護している場合には、介護サービスは使いにくいと感じます。

さらに、公的支援では対応が難しいこともあります。例えば、病院への付き添い。付き添い自体はメニューにありますが、実際には使えません。診察待ちに何時間かかるか読めないからです。ヘルパーの人材は不足していて、予定が詰まっています。フルで立ち会ってもらうのは無理です。それに、医者の話を聞き、治療方針を決めるのは、結局、家族です。美佳さんが同行しなくてはいけません。

なので、母と父の通院が重なると、大変でした。幸い、同じ総合病院に通えたので、2人のアポを調整しました。美佳さんが2人を連れて出掛け、双方の診察を掛け持ち。診察待ちの待合室に父を置いて、その間に母の診察に付き添ったりと、まさに綱渡りでした。在宅で高齢者2人を見るには、「体が一つじゃ足りない!」。

毎日の食事もあります。「何が食べたい?」食欲のない母のために、美佳さんは毎食、母に希望を聞きました。栄養があって、おいしいものを食べてほしい。母が食べたいものや、食べられそうな食事を用意する必要がありました。以前は、父が料理を作り、母が後片付けをするという役割分担でしたが、母の病気が分かってからは、すべてを美佳さんが担いました。

母のリクエストに沿って、毎食、料理をしました。魚を焼いたり、ピーマンやトマトの肉詰め、ロールキャベツなどを作ったり。野菜のポタージュスープはいつも用意しました。野菜5、6種とキノコ類をコンソメ味で煮て、ミキサーにかけます。手間はかかりますが、「なんとか生きてほしいからさ、食べてもらわないと」。

写真提供◎photoAC

在宅で抗がん剤治療に通った3カ月を経て、母は8月下旬に緩和ケア病棟に入院しました。そして、ひと月半後、他界しました。