自身も入院手術が必要と医師の診断
ここで思わぬ事態が起きました。6月中旬、美佳さん自身が医師から、入院手術の必要がある、と告げられたのです。母の抗がん剤治療開始の前日、ちょうど美佳さんも総合病院で検査を受けていました。健康診断で要精密検査と出たためです。検査の場で、腸の希少疾患が分かり、ポリープが見つかって組織検査に回しました。その結果がこの日の「がん化の疑いあり」でした。医者からは「このまま放置しておくのは恐いので、なるべく早く、入院して、手術して取ってしまいましょう」と言われました。
「え? 待って、入院?」
焦ったのは美佳さんです。なにしろ、母親は在宅でステージⅣの闘病中で、3週間前から通院治療を始めたばかりです。父親も糖尿病を抱えていて、3カ月に1度の通院は美佳さんが付き添っています。しかも、つい6日前に、父は肋骨を骨折しました。自転車で食材の買い出しに出掛けた帰り、車と接触する交通事故に遭ったのです。帰宅してから胸が痛いと言いだし、救急車で病院へ。入院には至らなかったものの、安静第一です。骨折の後の抜糸や経過観察などで、こちらも通院が必要でした。
そんな2人だけを自宅に残して入院なんて無理です。家族全員が病気だと、美佳さん一人じゃ回せません。困った美佳さんは、自宅近くにある地域包括支援センターに駆け込みました。「とりあえず、私が入院できる態勢を整えたいんです」。それまで、介護保険なんて、ひとごとで、考えたこともありませんでした。
「まず、介護認定を取りましょう」。言われて初めて、介護サービスを利用する前に、介護認定が必要だと気付きました。それまで両親とも、介護サービスを利用するほど、健康状態が悪くはなかったからです。自分の検査結果が出たその日のうちに、美佳さんは介護認定申請を出しました。
介護サービスを使うには、ケアマネジャーをつける必要があります。家族と施設をつなぐ係で、介護計画を立ててもらう必要があります。ケアマネが介護の肝だとは聞いていました。相性もあります。幸い、母の知人の伝手から辿って、信頼できるケアマネさんに繋がりました。介護認定の申請を出した10日後には、ケアマネさんに相談をできました。
介護認定が下りるまで数カ月かかると言われました。急いでもらい、奇跡的に1カ月で認定が出ました。母は要介護1、父は要支援2でした。ようやく、公的介護サービスが使えます。訪問介護や家事支援を受け始めました。