目下の課題は、仕事

母亡き後、しばらく父は落ち込んでいました。でも、美佳さんはスパルタ式にデイサービスに送り出しました。幸いデイサービスは楽しいらしく、今も週2回、嫌がらずに通ってくれます。事故後は自転車に乗らなくなりましたが、食材の買い出しには行ってくれます。マンションから徒歩5~3分の店まで、ショッピングカートを引いて往復し、食べたい食材を買ってきます。ほかの時間は、父はテレビを見たり、専用庭をいじったり。

幸い、父はまだ体も動かせますし、頭もしっかりしています。でももし、認知症か寝たきりになったら、お手上げです。そうならない限りは、美佳さんは在宅で世話するつもりです。ただ、「毎日ほぼ、ご飯のことしか考えてない」と、苦笑します。3食用意するので、献立を考えることでいっぱいです。

幸か不幸か、美佳さんの病気はこの間、経過観察が続いています。常用していた漢方薬の影響で、内臓に変色があるため、手術すべき病変の部位が特定できなかったのです。漢方を休薬して内臓の回復を待ってから、CTを撮って病巣を特定し、手術の日程を決めることになりました。今春も検査しましたが、まだ手術日は決まっていません。

美佳さんの目下の課題は、仕事です。介護中心の生活にすっかりなじんでしまいました。「仕事する気力がなかなか沸いてこなくて」と、美佳さんは漏らします。「生活を変える気力がなくて。つくづく、介護離職しちゃダメだと思う。立て直すのが大変だから。最初から、自分の労力をアテにして介護プランを作っちゃいけなかった。老後問題は労働問題。介護があっても働ける仕組みを作らないといけなかった。同居家族は、いったん介護要員として組み込まれちゃうと、そこから抜け出せない」

ライター業を再開しようにも、コロナ以来のブランクが長すぎて、かつての依頼主とのコネクションも絶えてしまいました。父を在宅で看ながらでは、新規に「営業する余裕がない」と言います。しかもウエブのライターだと単価が安く、「ライターは喰っていけない」。

「フリーランスより、会社に所属した方がいいのは分かってる。就職できるものなら、もう一度、就職して働くか。……でも年も年だし。この年齢で就職活動してもどうかと思って。転職サイトを見ても、タクシー運転手か介護職しか募集はない。介護は適性もあるし、自分にできるとは思えない。じゃあ今さら、何の仕事ができるかと思って」

世間では、リスキリングなどと言われてます。でも、人口のだぶついているアラ還世代が、今から新しいスキルを身につけて、新しい業界や業務に挑戦するなんて、非現実的でしょう。

写真提供◎photoAC

美佳さんの母は経理の専門家だったので、特例で70歳まで会社に残って仕事を続けました。そんな専門スキルは、美佳さんにはありません。父は70歳を過ぎたころ、シルバー人材センターの紹介で、スーパーの品出しバイトをしていました。「それくらいかなあ、できるのって」と、美佳さん。

「父の面倒もあるから、在宅でできる仕事が良い。だって、もし通勤するなら、父の食事は、昼と夜、2食用意して出掛けないといけない。それは無理だからヘルパーに作りに来てもらわないといけない。でも介護保険じゃ週に2食だけだから、自費で追加分は頼まないと。それなら、その分も稼がないといけない。悩ましい」。収入を得るために働くはずが、働くにもお金がかかる、ということです。堂々巡りです。