投資はしてないが「家さえあれば、なんとかなる」

実は、父方の伯母が、リバースモーゲージを使って、死ぬまで一人で暮らしていました。きょうだいや血縁には頼らず、近所の知人に様子を見にきてもらい、死後の整理、葬儀の手配、散骨は弁護士に依頼していました。不動産以外の、余った財産は、指定しておいた団体に遺贈したそうです。この伯母のように、美佳さんも「独身でも、周囲に迷惑を掛けずに一人で死にたい」と言います。

築古マンションの長所ですが、建築当初から住んでいる住人も多いため、マンション内にコミュニティーができています。一人暮らしの高齢者のために、マンション内には「見守り制度」もあります。毎月決まった日に、玄関の外に、決められた印を掲示するのです。印が出ているのは元気な証拠。もし印を出していない家があれば、管理組合の理事らが訪ねて、生存確認をします。孤独死から時間が経ってから発見される、という最悪の事態は避けられそうです。

心配性だった亡き母は、美佳さんの行く末を案じていました。一人っ子で独身だと、将来、天涯孤独になります。「少なくとも、住む家には困らないように」と、このマンションを残してくれました。さらに、「一人の老後が心配」と、老後資金も手当をしておいてくれました。美佳さんの名義で、受け取り時期の異なる個人年金に、何本か入っていたのです。すでに最初の一本は、美佳さんは受け取り始めています。これが、いまの生活費になっています。今後も次々と入る予定です。

堅実で貯金・生命保険派だった母の遺産は、父と2等分しました。父は投資派で、株の売買をしていますが、美佳さん自身は投資をしていません。バブルが崩壊した後、みるみる株価が下落し、紙くず同然になる状況をリアルタイムで見ていたため、恐くて手を出せませんでした。iDeCoもNISAもしていません。

それでも、「家さえあれば、なんとかなる」と、美佳さんは思っています。むしろ、夫も子もいない美佳さんの場合は、亡くなった後に何も残さないことのほうが大事、と言います。いま入っている終身生命保険だって、こののち父が他界したら、受取人になれる法定相続人(3親等以内)はおじ、おばだけ。いとこはいますが、4親等です。自分の死ぬ頃には、たとえ財産が残っても、相続すべき法定相続人はいないでしょう。