狩衣の括り緒が役に立った名場面
袖口に括り緒(くくりお)という紐が付いているのも狩衣の特徴です。
打毬(だきゅう)の場面や、疫病にかかったまひろを道長が徹夜で看病するというシーンで、この括り緒が大活躍したのを覚えておられるでしょうか。
この紐で袖口を絞ってたくし上げ、じゃまにならないようにする――普段は装飾用にしか見えない紐ですが、本来はこんな使い方をするのだなと、感心しました。もっとも、「腕まくりをして、必死に看病をする道長に、とにかく心を奪われた。紐のことなんて記憶にない」という人も多いかもしれませんね……。
こうした日常の服に対して、参内などのフォーマルな場面で着用したのが、正装である束帯(そくたい)です。
表着(うわぎ)にあたる袍(ほう)の色は官職の位階によって異なり、平安中期以降の場合、一位から四位が黒、五位が緋(赤)、六位が緑などと定められていました。そこで、高位の公卿たちが宮中で集まる場面では、全員真っ黒になってしまうのです。道長も、以前は赤の袍でしたが、位が上がった今は黒を着ています。
第19回では、まひろの父・為時が従五位下に出世したため「赤は持っていない!」などと慌てる場面がありましたが、それはこういうわけなのです。
また、束帯で、どうしても気になるのが、下襲(したがさね)の裾(きょ)と呼ばれるもの。女房装束の裳のように、うしろに長く引く裾のことで、位階によって、その長短が定められていました。(官職が上がると長くなる)
座るときは裾を幾重にも折り畳んで石帯(せきたい/玉や石がついた革の帯。袍の腰を締めるのに用いる)に掛けたり、歩くときは従者に持たせたりしていたようです。裳にせよ、束帯の裾にせよ、平安装束では高価な絹の布をたっぷりと贅沢に使っていたことに驚かされます。