田中邦衛さんとの思い出

若大将は俺。ライバルの青大将は田中邦衛さん。ヒロインは星由里子さん。途中から酒井和歌子さんに替わった。前にも話したザ・ランチャーズを結成したのもこの若大将シリーズがきっかけだった。映画の中で俺はスポーツもやったけれど、歌ったり演奏したりもしたよ。

『俺は100歳まで生きると決めた』(著:加山雄三/新潮社)

青大将役の田中邦衛さんは、俺よりも5つ年上。最初に会ったときはびっくりしたよ。20代であの風貌だったからね。ところが撮影がスタートすると、素晴らしいんだ。なんともいえない味がある。邦衛さんのような俳優と一緒にやらせてもらえて、ありがたかったな。青大将がいたからこそ若大将がいた。今もそう思っているよ。

邦衛さんはふだんからユーモアがあってね。楽しいんだよ。撮影前に並んでメイクしてもらっているとき、鼻歌を歌っているんだ。自分の頰をピシャピシャ叩きながらさ。

「京都、大阪、三千里~」

デューク・エイセスの「女ひとり」みたいな曲を歌うんだ。歌詞を勘違いしているんだな。

首をかしげて俺に聞く。

「おい、加山。この歌、おかしいよな? 京都から大阪まで3000里もあったっけ?そんな遠くないよな」

とふざけたことを言うんだよ。

「邦さん。その歌、京都、大原、その次は三千院ですよ!」

「あっ、そうか! どうりで変だと思ったよ」

ふだんからそんな感じだった。