生ドラマでのハプニング

昭和のころのテレビ番組には、生のドラマがあってさ。邦衛さんはNHKで炭鉱事故のドラマに出ていた。

坑道で爆発が起きて、死体が累々とあるなかを走って石炭会社のえらい人に報告に行く。そこでまた爆発が起きるんだけど、邦衛さんは同時におならをしてしまった。ブッ! て。もれちゃったんだな。でも生ドラマだろ。放屁で放送をストップするわけにはいかない。邦衛さんはそのまま台詞を言った。

「今の音、聞こえましたか?」

ほかの俳優は耐えられずに噴き出してさ。炭鉱事故の切羽詰まったシーンなのに、死体役の人まで笑っちゃって、台無しだよな。

若大将シリーズが18本も続いたのは邦衛さんのおかげだ。俳優としての俺のキャリアで、あの人と出会えたのは大きな財産だったな。

若大将シリーズの後、邦衛さんは『北の国から』で主演して、あのドラマはたくさん賞を獲っただろ。長く続いて、間違いなく日本のドラマ史の名作の一つになった。俺は自分のことのようにうれしかった。邦衛さんは評価されるべき、素晴らしい人だと思っていたからね。

 

※本稿は、『俺は100歳まで生きると決めた』(新潮社)の一部を再編集したものです。


俺は100歳まで生きると決めた』(著:加山雄三/新潮社)

2022年末のNHK紅白歌合戦出演を最後にコンサート活動から引退した加山雄三は、ある決意をする。「俺は100歳まで生きる」と。新たな音楽活動に挑戦して本人が「攻めに転じた」という70代から愛船の火災と病に見舞われた80代、そして未来を見据えた余生まで。自身を育んだ茅ヶ崎の海や強い絆で結ばれた友たちに思いを馳せながら、永遠の若大将が語る幸福論!