生ドラマでのハプニング

昭和のころのテレビ番組には、生のドラマがあってさ。邦衛さんはNHKで炭鉱事故のドラマに出ていた。

坑道で爆発が起きて、死体が累々とあるなかを走って石炭会社のえらい人に報告に行く。そこでまた爆発が起きるんだけど、邦衛さんは同時におならをしてしまった。ブッ! て。もれちゃったんだな。でも生ドラマだろ。放屁で放送をストップするわけにはいかない。邦衛さんはそのまま台詞を言った。

「今の音、聞こえましたか?」

ほかの俳優は耐えられずに噴き出してさ。炭鉱事故の切羽詰まったシーンなのに、死体役の人まで笑っちゃって、台無しだよな。

若大将シリーズが18本も続いたのは邦衛さんのおかげだ。俳優としての俺のキャリアで、あの人と出会えたのは大きな財産だったな。

若大将シリーズの後、邦衛さんは『北の国から』で主演して、あのドラマはたくさん賞を獲っただろ。長く続いて、間違いなく日本のドラマ史の名作の一つになった。俺は自分のことのようにうれしかった。邦衛さんは評価されるべき、素晴らしい人だと思っていたからね。

 

※本稿は、『俺は100歳まで生きると決めた』(新潮社)の一部を再編集したものです。

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俺は100歳まで生きると決めた』(著:加山雄三/新潮社)

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