『俺は100歳まで生きると決めた』(著:加山雄三/新潮社)
2024年で87歳の加山雄三さん。俳優・歌手として活躍し、70代以降は愛船の火災や病に見舞われながらも、ニックネーム「若大将」そのままに人生を駆け抜けています。著書『俺は100歳まで生きると決めた』から一部を抜粋し、加山さんが語る幸福論をご紹介。今回は、故・谷村新司さんとのお別れについて。一緒に「サライ」を歌うのは、2022年の24時間テレビが最後になった――

谷村君と別れの「サライ」

2023年10月8日──。

谷村君がまさかこんなに早く帰らぬ人になるなんて。今も信じられない。身体が悪かったなんて、俺はまったく知らなかった。

彼と最後に歌ったのは2022年の24時間テレビだった。いつものようにフィナーレの前、二人だけで「サライ」を歌った後、彼に抱きしめられてね。びっくりしたよ。

あのときは、彼が俺のことを案じてくれているのだと思った。その少し前に脳梗塞をやって、小脳内出血もやって、ステージで歌うのをやめると決めていたからね。

それにしても変だった。谷村君の顔を見たら、涙を流してるんだ。えっ、泣くことはないだろ?

俺はまだまだ元気だぞ──と言ってやろうと思った。

すると、やさしい声で言うんだよ。

「さようなら」

おいおいおい。おおげさ過ぎないか、と思った。でも、大勢の人が観ている24時間テレビのファイナルのステージだろ。よしよしと抱きしめた。

あのとき、谷村君は俺の身を案じたのではなかったんだな。今思えば自分の身体の状態をわかっていたんだろう。それで、最後の「サライ」を歌って泣いていた。別れの抱擁だったんだ。それを俺は察してあげられなかった。

最後の「サライ」は忘れられない歌唱になった。