今後の家賃の値上がりを危惧

アーティストの史子さんはいま、欧州のとある国の首都、A市で一人暮らしをしています。自宅アパートは42平米1DK、家賃が管理費等込みで、320ユーロ(約5万5千円)。東京に比べれば安いように見えますが、史子さんは今後の値上がりを危惧しています。かつては人気がなくて家賃が安かったA市内の物件ですが、ここ数年でどんどん上がっていると言います。史子さんの物件も、この15年強で100ユーロ値上がりしました。

「今、500ユーロ(約8万5000円)以下のアパートは見つからない。昔はたくさんあったのに」

一般的に、家賃は収入の3分の1に収めるのが目安と言われます。欧州でも同じ考え方だそうですが、A市の最新のデータでは「家賃は収入の4割」が平均とのこと。家賃の値上がりの割に給料がそれほど上がっておらず、人々の暮らしを圧迫しているということです。

背景には、世界的な事情があります。ウクライナ戦争後、ロシアからのエネルギー輸入が止まったことと、増加した難民対策に税金が多く注がれるようになったことから、欧州では物価が上昇。さらに、コロナ後の世界的な金余りで、海外の投資家が地球横断的に、割安な国の不動産を買いあさるようになりました。海外投資マネーによる不動産購入の余波で、史子さんのいる国での分譲賃貸物件の家賃が上がっているそうです。海外投資家が国内不動産の高騰を煽っている状況は、東京と事情が極めて似ています。

かつては、日本に比べてアーティストの発表の場が多いと感じていた欧州ですが、最近は「町のすき間が減ってきた」と、史子さんは言います。

「前は、街中の空き店舗とか、建物の空いた空間とかがあった。そういうところで、よく、アーティストたちがイベントをやったり、若手が自主的に展覧会をしたりできた。でも最近は、そういう自由に使える空間が減っちゃって」。不動産の価格上昇の折、自由な活動ができる空きスペースや、遊休期間もなくなってきたというのです。「でも、日本のほうがもっと商業主義というか、商業ギャラリーで発表できるような一部のアーティストしか、日本だとやっていかれないんじゃないかなあ」