当地で働けるうちは働くほうが現実的
実は史子さん、日本の国民年金に、20歳で加入して以来ずっと入っています。海外にいる間も、保険料を納付し続けてきました。国民年金は、海外在住者も任意加入で続けられます。納付した分は、もちろん老後に年金として受給でき、海外送金もしてもらえます。
史子さんはよく分からなくて、日本と当地と二重に、公的年金の保険料を納付しています。本当は免除制度もあるようですし、両国間で年金の相互支給制度があるとも聞きました。でも相談する人もおらず、史子さんは自分の公的年金について、よく分かっていません。
いっぽう、権利として、史子さんは当地に住み続けることができます。数年前に、自力で永住ビザ(無期限滞在許可)を取ったからです。現地人の恋人がいた時期もありますが、結婚はしませんでした。配偶者ビザではないアジア系の女性永住者は珍しいそうです。「こっちで一人で生きているアジア系女性って、自分のほかに見たことないかも。みんなパートナーがいるね。欧米女性だと、シングルで母国以外の国で働いている人も多いけど」
アーティストとしての収入だけでは厳しいので、史子さんは日本語教師の仕事もしています。「教師の仕事を頑張って、生活費を稼げるうちは稼ぐしかない」。幸い、日本語教師の仕事は公的機関からの業務委託です。定年もなく、コマ数を急激に減らされることもなさそうなので、あと10年くらいは教師を続けるつもりです。逆に、いま日本に帰国しても、今さら派遣社員などで働くのも難しいでしょう。ならば当地で働けるうちは働くほうが現実的です。
それに、今は日本には帰れません。12歳になる猫2匹と暮らしているからです。子猫の時から育ててきました。彼らが生きている間は、面倒を見るつもりです。あと何年かは分かりませんが、20歳を超えて生きる長寿猫もいます。「この子たちがいる間は帰国できないなあ」