老後の見通しはかなり暗い
あるのは、わずかな父の遺産だけです。分割せずに、父の後添えと妹と計3人の共有財産にしています。実家の建物を維持補修したり、3人の誰かに何かがあった時のために備えたり。「遺産で争うなんてイヤ。幸い、争わない間柄だった」。姉妹とも、遺産分割に口を挟む配偶者がいなかったおかげで、相続が「争族」にならずに済みました。二人とも独身でかえって良かったかもと思います。ただし、実家があっても老後の見通しはかなり暗い、と史子さんは言います。
「実家と年金だけじゃ十分じゃないのは確実。体を壊さずに働き続けることだけが生きる術だけど、でも高齢者が働ける機会が日本にあるのかどうかも不安。特に私はフリーランスだから、かなりお先真っ暗」
日本に帰国しても大変そうなら、永住ビザもあることですし、今の国で老後を過ごす選択肢はないのでしょうか。「こっちで高齢者施設に入っている日本人の知り合いがいて、一度、見に行ったんだけど、……あれは嫌だと思った」。日本の施設との違いを感じました。「こっちの人は基本的に、他者への思いやりが日本人よりも薄い。そういう文化なので仕方ないんだけど、なんというか、入居者の扱いが手荒い」。ケアの仕方が、欧州では、日本ほど細やかではないそうです。
「私、仕事は好きなのよ。もちろん作品を作るのも好きだけど。楽しいから働いてるんだ、って最近、気付いたの。だから、大変だけど、いいの、働けるうちは働くの。日本に帰るのは、教師の仕事をクビになってから。いよいよ働けなくなったら、帰国を考えるわ」。まずは猫たちもいることだし、と史子さんは苦笑しました。
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