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福井弁の耳心地の良さが一番印象に残った

増永五左衛門さんを演じるにあたって、まずとても人間力がある方だと思いました。怠けている、だらしない男だったら、まわりの方々に信頼されていない。それがなぜ仲間を動かしたり、みんなを説得したり、「五左衛門さんのためなら」と多くの方たちが彼と共に人生を賭けたかと言えば、私利私欲のない男だったからですよね。もし私利私欲のために、自分は庄屋の跡継ぎをやめて、金儲けをしたいだけだったら、一家は終わっていたと思うんです。でも、五左衛門さんは精神性の高い男だった。

明治時代のお話なので、今、映画を観ると驚くほど頑固な男に映るかもしれません。昭和初期の男でさえ頑固な部分はあるので、 明治時代はなおさらのこと。でも、メガネをもし世の中に広めることができたら、どれだけのメガネを必要としている人たちを救うことができるんだろう? という純粋な思いで突き進む。自分の田畑や資材を投げ打って、うまくいくかどうかわからないメガネ作りに人生を賭けるという情熱。そこに一番、心を打たれました。

少なからず、「この人のためだったら」という思いは、日本人のDNAとして、みなさんの中にも流れていると思っています。日本人が持つ組織力の強さということにもつながっていくのかなと。僕が同じ立場だったら、もしかしたら地獄に落ちるかもしれないし、ご先祖さまに怒られるかもしれないけれど、五左衛門さんのように「よし!」と決めたらやり抜いたでしょうね。

五左衛門さんは、当初メガネ作りに反対しますが、視力の弱い子どもがメガネをかけて「見える」と喜んでいる姿を目の当たりにして、メガネ作りを決心します。やっぱり、誰かのためにという気持ちは、地域のためにもなるから。五左衛門さんは偉大な方ですよね。

今回、唯一大変だったことといえば、方言です。方言指導の先生もついてくださり、少し大阪弁に聞こえるような感じだけれど、その中間と標準語をまじえての福井弁はこうです、という具合に教わって。今回は、若い人たちがわからなくなるから、あえて完璧な明治時代の福井弁にはしなくていいとも言われて、救われました。地元のエキストラの方含め、「小泉さあん(「あ」を強調する後ろ上がりのイントネーション)と言ってくれて、福井弁の耳心地の良さが一番印象に残りましたね(微笑)。福井弁はとてもぬくもりがあって、優しいんです。