『世界物語大辞典』総合編集◎ローラ・ミラー/日本語版監修◎巽 孝之/訳◎越前敏弥

 

 

古今東西の定番とおすすめ。日本からはあの作品が……

今ではないいつか、此処(ここ)ではない何処(どこ)かに行ってみたい。読書にそんな願望を託している人にとっての最良のガイドブックが、このたび翻訳刊行されました。『世界物語大事典』。古今東西のファンタジー、幻想小説、SFから、定番とおすすめを98作品紹介。このジャンルのマニアは言うまでもなく、詳しくない人にとっても楽しい内容になっています。

「1 古代の神話と伝説」「2 科学とロマン主義」「3 ファンタジーの黄金時代」「4 新しい世界の秩序」「5 コンピューター時代」の章に分かれていて、それぞれ、1700年まで、1701年から1900年まで、1901年から1945年まで、1946年から1980年まで、1981年から現在と、変に奇をてらわず、年次になっていてわかりやすいのも◎。

『ギルガメシュ叙事詩』『ベオウルフ』のような名のみ高いものの、読んだことがある人は少ない作者不詳の古典的名作から、ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』やサン=テグジュペリ『星の王子さま』、カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』のような世界中で読まれているロングセラー作品まで、目配りの利いた選書が素晴らしい。でも、このガイドブックの目玉は、「これもファンタジーやSF?」と首をかしげるような作品まで加えている点にあるんです。そのおかげで、ジャンル小説の傑作のみならず、ナボコフやペレック、ガルシア=マルケスといった主流小説の書き手の作品にまで触れることができ、1冊読み通せば、かなり幅広い小説に関する知見が得られます。

残念なのは、日本からは村上春樹の『1Q84』しか紹介されていないこと。多和田葉子の『雪の練習生』も入っててほしかったなあ。

『世界物語大辞典』
総合編集◎ローラ・ミラー
日本語版監修◎巽孝之
訳◎越前敏弥
三省堂 4200円