©Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

 

報われない“労働環境を” 問う一作

先日、テレビで是枝裕和、ケン・ローチ両監督がこれまでの作品について語り合う番組が放送された。ケン・ローチは労働者階級や移民など社会的弱者に寄り添う作品を撮ってきたが、対談中に、労働者が弱体化している今の世の中について、静かな怒りをこめて語るのが印象的だった。彼の最新作『家族を想うとき』はその現実を描き出す。

イギリス、ニューカッスル。妻と10代の子が2人いるリッキーはマイホーム購入の夢をかなえようと、働き方次第で収入が増えるフランチャイズの宅配ドライバーとして独立。妻のアビーは訪問介護福祉士の仕事をして、家計を支える。彼女は夫が夢をもって語る個人事業主という労働形態を懸念しながらも、その熱意に押し切られた。1日14時間、週に6日、宅配ドライバーとして2年も働けば、マイホームが持てる。こう言ってリッキーは妻を納得させたのだ。だが、いざ始めると、慣れない作業に手間取ったり、予想外のペナルティがあったりと、彼が思い描いたように仕事は進まない。

短気だが、家族想いの勤勉な労働者、リッキー役クリス・ヒッチェンの経歴は異色だ。配管工として20年以上働いたのちに、40歳を過ぎて俳優となった。安い給料で人に使われるより、個人の力量で稼げることに期待する。体力も気力もある労働者のプライドと意欲、そして過酷な労働環境によりそれらが次第に萎えてゆくさまを、説得力ある演技でみせる。

リッキーの一家は10年ほど前に金融破綻の煽りを受けてマイホームの夢を挫かれ、彼は建設業の仕事を失った。その苦境を脱しようと、職を転々としながらも怠けずに働き、宅配ドライバーとして独立する彼の姿は他人事ではない。アビーも夫の頑張りがわかるから、不平不満を口にしない。彼女は自分の仕事に誇りを持ち、介護する顧客にも誠実に向き合う。だが、そのために、子どもたちと過ごす時間が少ないことを気にかける日々がやるせない。

個人の働き方が多様化する現代で、独立した自営業者は自らの裁量で仕事ができ、専門能力を持つ人が特定の組織に縛られずに仕事を見つけることも容易になった。その一方で、失業保険、最低賃金や有給休暇の保障はなく、事業にかかる経費や費用も自己負担だ。結果的に長時間労働から抜け出せない。

リッキーもそんなひとり。それでも、暮らしを楽にして、子どもたちによい教育の機会を与えたいと必死になるが、働いても報われない現実が家族を引き裂く。救いは、久々に家族4人揃って囲むささやかな夕食の和やかな会話と笑顔だ。さまざまな困難に遭いながらも、彼らは失いかけた家族の絆に気づくが……。家族にとって大切なことは何か、それを守るために何と闘えばよいのか、見る者に問いかけてくる。

***

家族を想うとき

監督/ケン・ローチ
脚本/ポール・ラヴァティ
出演/クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、
ケイティ・プロクター、ロス・ブリュースターほか
上映時間/1時間40分
イギリス・フランス・ベルギー合作
■12月13日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開

***

 

©2019「 カツベン!」 製作委員会

憧れの活動弁士になるが…

約100年前の日本。モノクロ、無声の活動写真を盛り上げたのは、個性豊かな語りで話を彩る活動弁士〈カツベン〉。主人公・俊太郎(成田凌)は、とある活動写真館に流れつき憧れの弁士になるが、思わぬ騒動に巻き込まれる。永瀬正敏、高良健吾など豪華キャストで綴るエンターテインメント。12月13日より丸の内TOEIほかにて全国順次公開

***

カツベン!

監督:周防正行

***

 

©Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefónica

知的障がいのあるメンバーを指導して

マルコ(J・グティエレス)はプロ・バスケットボール・チームのサブコーチ。知的障がい者を相手に指導することになるが、マイペースなメンバーでのチーム作りは一筋縄ではいかない。実際に障がいのある“俳優”たちの頑張り、彼らとマルコが築く絆が爽やか。12月27日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開

***

だれもが愛しいチャンピオン

出演:ハビエル・グティエレスほか