困難を極めた美しい水流作り

水に流す羽しょうのデザインは、京都の鴨川にあやかって「鴨」がモチーフ。その鮮やかな色彩は、古来から高貴な色とされる繧げん彩色を取り入れた。実物の素材は木材だが、林先生の色を元に美術チームが発砲スチロールに彩色。水に溶けない絵の具を使用した。

羽觴
水鳥の形をした羽しょうの上に盃が乗っている

美術チームは、事前に別のスタジオで遣水の模擬セットを組み、実験・検証を繰り返し、調整しながら本番に臨んだのである。

困難を極めたのが、S字の遣水に理想的な美しい流れを作ることだった。
「水は高い所から低い所に流れるのはあたりまえですが、遣水が曲がっているので、羽しょうが途中でクルクル回ったりするので苦労しました。羽しょうにモーターをつけて動かすの 改良が必要でした 」(NHK 映像デザイン部・山内浩幹チーフデザイナー) 。

「遣水」実験・検証
水の流れを実験・検証

私はこの取材の始めに、スタジオ内に遣水を作ると聞いたとたんに想像してしまった。水をどんどん流したら、スタジオの庭園は水浸しになり、水辺で和歌を作る役の俳優たちは、衣裳の裾を持ち上げて逃げなければならない。短時間に撮影しなければ、風雅な宴が台無しになるのではないかと。この私の愚かな想像は打ち消された。

流れの最終地点で、水をポンプで吸い上げる仕組みを造っていたのだ。
少しの落ち度も許されない、スタジオ内での曲水の宴。『光る君へ』のドラマの展開の裏で、美術チームのセット造りのドラマがあることを学んだ。