誰かに真実を話したくなるとき
佐藤 あったと思うよ。シェワルナゼは、ゴルバチョフとペレストロイカを強烈に批判したソ連空軍大佐アルクスニスらの蠢動(しゅんどう)により、保守派から攻撃される形で辞任を余儀なくされた。
「黒い大佐(アルクスニスのあだ名)どものやりたいようにはやらせない」と捨て台詞を吐いて辞めていったほどで、そのままだとソ連を崩壊させた裏切り者、売国奴ということにされてしまう。自分はソ連を思ってこんなぎりぎりの交渉をやっていたのだ、という事実を記録として残したいという思いはあったんじゃないかな。
西村 自分の政治生命が危うくなるかもしれないという予感があって、保険として、アメリカ人の記者に全部渡して書かせようということだった、と?
佐藤 その可能性が高いと思う。「人間は生き死にに関わる状況になると、誰かに本当のことを伝えたくなる。真実を伝えたいという欲望を持つ」。それはイリインさんから教えられたことだけれども。おそらくシェワルナゼも、近い心境があったんじゃないかな。