戦争を描くこと
古内 実は私も、これまでに『十六夜(いざよい)荘ノート』『鐘を鳴らす子供たち』など、戦中戦後をテーマにした小説を4作品ほど発表してきています。
なぜ、戦争のことを書くのか――。
私には、両親と祖父母の記憶を残していきたいという願いがあります。戦争の体験者である両親と祖父母の記憶を残しておきたい。彼らの味わった苦しみを二度と繰り返さないために、小説として残しておきたい、という願いがあって書き続けているのです。
私よりかなり若い世代の楊さんが、歴史小説、特に日本統治時代を書くのはどうしてなのでしょうか。
楊 私たちの世代はもちろん戦争の記憶はありません。私が日本統治時代を描く理由は、古内さんとも共通するところがあると思います。
戦後、台湾人は学校で中国の歴史を学んできました。かつて、私の父やおばに「台湾は戦争中に空襲を受けたけれど、攻撃したのはどこの国だったの?」と聞いたところ、「日本だ」と答えていました。
台湾は日本統治下にあったのだから、日本が攻撃するなんておかしいですよね。つまり、親の世代の歴史教育では日本統治時代のことには全く触れられていない。代わりに中国の歴史を教えられているのですが、それが中国史であって台湾史ではない、ということに気づいていなかったのです。
それがショックで、私たちは、いまの若い世代に、小説などを通して自分たちの歴史を伝えていかなければいけないと感じました。
古内 日本による空襲があったのは大陸の話ですよね。楊さんのご両親の世代は、中国大陸の歴史を自分たちの歴史として勉強してきたということですね。
楊 そうです。2000年の政権交代後、歴史教育が変わり、私の高校、大学時代には台湾の歴史を学ぶようになっていました。2014年の「ひまわり学生運動」もまた、自分たちの歴史を学ぼうという気運を高めたと思います。