古内一絵さんと、楊双子さん
(左から)作家の古内一絵さんと、同じく作家の楊双子さん(写真提供◎株式会社RAINBOW)
11月20日、アメリカで最も権威ある文学賞の1つ、全米図書協会による全米図書賞が発表され、翻訳文学部門で『台湾漫遊鉄道のふたり』(著:楊双子、訳:三浦裕子、原題:『台湾漫遊録』)が受賞しました。台湾の小説が受賞するのは初の快挙。また同作は、第十回日本翻訳大賞も受賞しており、注目が集まっています。著者の楊双子さんが作家・古内一絵さんと日台の歴史について語り合った記事(『中央公論』2023年8月号掲載)を配信します。


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1938年、日本統治時代の台湾に招待され、各地を旅して講演を行う日本人作家・青山千鶴子と、台湾人通訳・王千鶴(おうちづる)の交流を描いた小説『台湾漫遊鉄道のふたり』。その作者である楊双子さんが台湾から来日し、夜食カフェ物語「マカン・マラン」シリーズなどが人気の作家の古内一絵さんと、作品や日台の歴史について語り合った。(写真提供◎株式会社RAINBOW)

台湾の食べ物と風景と

古内 『台湾漫遊鉄道のふたり』は、台湾の美味しい食べ物がたくさん登場し、読んでいると目の前に台湾の風景が浮かぶようなすばらしい文章で、とても面白く読みました。

私が興味をひかれたのは、日本統治時代を舞台にしているというところです。この作品は、どんなところから着想されたのですか。

 私は1984年生まれですが、大学に入るまで、日本統治時代についてはあまり教えられてこなかったんです。大学に入ってから日本統治時代について勉強したことを、ぜひ同時代の読者の方に知ってもらいたいと思いました。

そこで、どのようにしたらいいか、と考えたときに、実際に当時の人が食べたものや風景、台湾縦貫鉄道をリアルに描写することから始めようと思いました。また、私の知らない日本統治時代を描くにあたっては、日本の漫画が参考になりました。特に影響を受けているのは三つの作品で、まずは『駅弁ひとり旅』(監修・櫻井寛、作画・はやせ淳)。弁当や食べ物の描き方が参考になりました。二つ目は、『ゴールデンカムイ』(野田サトル)。私たちの知らない時代をリアルに描いています。もう一つは、『乙嫁(おとよめ)語り』(森薫)。これも私にとっては大変重要な作品でした。

古内 日本の漫画をたくさん読んでいらっしゃるんですね。私よりずっとお詳しい。
(笑)

楊さんがおっしゃったように、この本にはストーリーと関連したたくさんのお料理が登場します。お料理を決めてから話を作ったのでしょうか。それとも話のモチーフが先ですか。

 最初は、台湾の宴会料理12品をもとに12 章からなる小説にしようと思いつきました。そのあと、物語の展開に合わせて内容を調節していきました。日本統治時代の宴会料理のことは、いまの台湾人はほとんど知らないと思います。戒厳令下(1949〜87年)では日本のものは否定されていたので。私も資料で知りました。

宴会料理は軽いもので始まって、最後は汁ものや麺が出て締めるというところが、物語の起承転結と似ていると感じました。一緒に食べる料理を通して二人の関係性が分かるように、その場面にふさわしいものを描きました。

古内 小説と料理は確かに似ているところがありますね。章のタイトルになった料理の他にもたくさんの食べ物が登場しますが、楊さんはすべて召し上がったのですか。

 できるだけ食べるようにしました。ただ、生のひまわりの種は食べていません。農家の人たちが家で食べるもので、流通することはまずないのです。