衣装のために3年前から準備を開始
諫山さんは京都在住の日本画家。大学院在学中から東映京都撮影所で時代劇用の襖絵や掛け軸などの制作に携わり、2015年に画家として独立。寺社に奉納する襖絵などを手掛ける一方、映画やドラマの美術にも関わってきました。
また、NHKの連続テレビ小説『スカーレット』では、信楽焼の火鉢のデザインや絵付けなどを担当。その縁で、3年前の夏、『スカーレット』と同じチームが制作する『光る君へ』の「衣装人物画」をやらないかと、声がかかったそうです。
ところが、ドラマの放送がはじまると、「衣装デザイン」という肩書で自分の名前がクレジットされていて驚いたとか。「『衣装のデザインなんかしてないのに……』と思い、プロデューサーさんに聞いてみたのですが、そういう決まりだから、というお返事でした」
「衣装デザイン」と聞くと、ファッションデザインのような仕事をイメージしてしまいますが、今回の諫山さんの役割はカラーコーディネーターのようなもの。登場人物の年齢や季節、装束の種類などが書かれた指示書に従って、衣装の配色を考えるというものです。
女性の袿姿や女房装束、男性の直衣、狩衣など、当時の装束のイラストをあらかじめテンプレートとして用意しておき、それに色をつけた人物画をiPad上で作成。柄については、使える文様(有職文様)が限られていることもあり、「こんな感じの柄で」とざっくりとした案を出すにとどめたそうです。
「『重ねる袿は2枚くらい』『この人は真面目だから、単は白に』といった指定が監督さんから届くので、その範囲内で衣装案をいくつか考えて提出する。こちらから『袿は何枚重ねますか?』と聞くこともありました」(諫山さん)
指示書には、「モテ男」「ファッションリーダー」「遊び人」などの注釈がつくことも。台本と照らし合わせながら、それぞれのキャラクターのイメージを膨らませて、各人の個性を表現した配色を考えるわけです。
考慮すべきはキャラクターの個性だけではありません。平安装束の色の組み合わせである「かさね色目」には、美的センスはもちろん、有職故実などの知識や教養も必要になります。諫山さんも、今回の仕事が決まってから、大学の先生の授業を聞きに行ったり、関連書籍を買い集めたりと、猛勉強を重ねたそうです。