紫式部のテーマカラーはやはり紫

『光る君へ』の主要な登場人物の衣装には、それぞれにテーマカラーがあるそうです。まひろの場合は、(紫式部だけに!)やはり紫色のようですが、ご存じのように、最初から紫色が目立つ衣装だったわけではありません。

「衣装デザイン」として、このドラマに参加している諫山恵実(宝樹)さんによれば、最終的に紫色をメインにするという流れが決まっていたとか。紫系の色を少しずつ使いながら、“最終形”に向けて、紫色の存在感を徐々に強めていくという感じでしょうか。

たとえば、若い頃のまひろの衣装も、差し色として使う紫が映えるように、山吹色やオレンジ系の色が選ばれました。

「長袴にすると町に出られないため、袴も(足首までの長さの)切袴で、重ねる衣の数も少なかったのですが、裏地は薄紫色にしてみたり……。質素な暮らしぶりでも、木綿や麻なら紫に染められると考えたんです」(諫山さん)

これには少々解説が必要かもしれません。以前この連載でもふれたように、染色に手間のかかる紫色の絹は、皇族や上流貴族など、財力のある人しか身に着けることができない特別なものでした。

しかし、木綿や麻を薄い紫に染めることはそれほど難しくなかったため、つつましい暮らしだったまひろでも、木綿や麻なら、薄紫を身に着けることは不自然ではないと考えたということ。

カメラ映えだけではなく、当時の社会背景をきちんと考慮して衣装を用意していたことがわかるエピソードではないでしょうか。

若い頃のまひろの衣装
若い頃のまひろ。衣装の裏地などに薄紫色を使った(提供NHK)