CO₂の排出削減に向けた
バイオマス混焼拡大
次は、発電所の全体を見渡せる敷地内の展望台へ。同発電所の敷地面積は、およそ56万㎡と、東京ドーム12個分の広さ。施設全体と、船が航行する敦賀湾が一望でき、「海と山に囲まれた穏やかな港ですね」と坂下さんが語る通りの風景が広がっています。
折しも石炭の運搬船が着岸し、ベルトコンベアで石炭を貯炭場へ運んでいました。一方、敷地の一角に円筒状の設備がいくつか並んでいるのが見えます。「あれは木質バイオマスの貯蔵サイロです。樹皮や木くずなどをチップ状にしたものをさらに細かく砕き圧縮した“木質ペレット”が保管されているんですよ」と小幡さん。バイオマスとは、動植物などから生まれた生物資源の総称です。
近年、火力発電において天然ガスや石炭などの化石燃料に、燃焼してもCO₂を排出しない水素やアンモニア、バイオマスといった燃料を混焼することで、CO₂の排出量を抑える取り組みが行われています。敦賀火力発電所で実用化されているのが、その技術の一つである「木質バイオマス混焼発電」。
「木質バイオマスの燃焼によってもCO₂は発生しますが、そのCO₂はもともと光合成によって植物が吸収していたもの。つまり地球のライフサイクルで見れば、大気中のCO₂は増加していないという、カーボンニュートラルにつながる技術です。バイオマスを混ぜることで、化石燃料である石炭の使用量を減らし、CO₂を削減することができます」(小幡さん)
同発電所の2号機では、07年6月に木質バイオマス発電をスタートさせ、24年11月30日から混焼比率(熱量比)を従来の1%程度から15%に拡大させた発電を開始しました。「北陸電力では、安定供給を前提に、電源の脱炭素化を着実に推進するため、木質バイオマス貯蔵サイロの建設工事や発電設備の改造工事を進めてきました。これにより、バイオマス燃料を従来の木質チップだけでなく、木質ペレットも混焼できるようにし、混焼比率を大幅に拡大させることが可能になりました」。(小幡さん)
坂下さんは「地球環境を守る技術が生まれてくるのは素晴らしいこと」と期待を寄せます。
私たちの生活を支える火力発電の現場で「脱炭素」が進むことは、環境を守るためにも大きな意味があります。先ほど紹介した水素やアンモニア、バイオマスといった燃料を混焼するほか、排出されたCO₂を地中に埋めたり、CO₂から都市ガスの原料になる合成メタンを精製して再利用したりする研究も行われています。
そもそも日本はエネルギー資源に乏しく、発電に必要な燃料はほとんど海外からの輸入に依存しています。エネルギー自給率はわずか13%程度。また、海に囲まれた日本は近隣国と送電線がつながっておらず、必要な電気はすべて国内で発電しないといけません。もし何らかの理由で燃料調達に支障があれば電気をつくれなくなり、電力不足に陥ってしまいます。こうした状況だからこそ、日本独自のエネルギー政策として、特定の電源に依存するのではなく、「たくさんの電気がつくれるうえ、調整しやすい火力」と「水力、太陽光、風力など、CO₂を排出しない再生可能エネルギー」、そして「たくさんの電気を安定してつくれて、CO₂を排出しない原子力」など、さまざまな発電方法のメリットを組み合わせる「エネルギーミックス」が重要なのです。