なぜ我が子を警察に?

店外にいるのは酔っ払った親子と、完全に酔いが冷めてしまった私と、店員。4人中、3人にアルコールが入っているという収拾のつきにくい状態だ。

そんな状況の中、母親が何かを恨んでいるような怖い形相で、電話をしていると思ったら、なんと警察へ連絡をしている。

「あ、もしもし、110番ですかッ! 今ですね、居酒屋で男ふたりが喧嘩をしてましてねッ! 怪我されちゃ困るもんですからねッ! 止めに来てくださいッ! 住所言いますよッ!!」

ああ、また事態が面倒なものになってしまうじゃないか。そんな大ごとにしなくても、息子の腕を引っ張って帰ってくれ。

「おまえ、ぶつかったんだからちゃんと謝れよ」

「は? なんだと? てめえ。お姉さん(私)がもういいって言ってるじゃねえか。おまえが気に喰わねえんだよ」

もう喧嘩の議題は私を通り越して「ただお互いが気に喰わない」というフェーズに突入していた。その間も母親は「この子を! この子を警察に突き出してくださいッ!」とご乱心。店内の客が制止に入ってくれるワンシーンもあったけれど、収拾がつかない。こりゃ、警察に来てもらったほうがいいのかも…?と考えているところにほどなくして、ふたりの警察官がやってきた。母親は状況説明をしようと、警察官を相手に声を荒げている。

「今日、今日ね、やっと帰ってきたんですよッ! なのにこんなバカ息子でもう……」

息子がどこから帰ってきたのかは聞き取れなかった。私は私でその場から少し離れた場所で、事情聴取を受けた。なぜ離れたのか。警察沙汰になると、名前と連絡先に加えて生年月日も伝えることになる。たとえ酔っていようと公衆の面前で年齢は言いたくないという、かすかな乙女心は忘れない。生年月日だけは小声で、そして早く帰りたいとも伝えた。おばさんは深夜に弱いのだ。