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正体のない「世間体」。呪いの言葉に気づいて

おそらく相談者は現在、介護保険制度も活用せず、母親をひとりで介護しているのでしょう。きっと長い年月、時間に余裕のない毎日を送ってきた。「自分の時間を犠牲にして」とあるので、終わりのない介護の日々にかなりの不満がありそうです。

ひとつ言えるのは、気晴らしに外食もできないような生活は、確実に精神を蝕んでいくということ。ひとりだけで老親を介護するのは無理、という前提で、国が制度を整えていることを理解してほしいですね。

この相談者は何よりも、利用できる制度を全部利用して、「自分が好きにひとりで使える時間」を確保すべきです。それは決して母を人に任せて好き勝手することではありません。罪悪感を覚える必要なんて、まったくない。

……と、こんな正論を言っても、すぐに行動に移せるとは思えません。この相談者は、娘として母親を介護しないと人様に顔向けできないという、いわゆる正体のない「世間体」も強く意識しているようです。

そこで現実的な話をしましょう。この母親よりあなたのほうが長生きするという保証はありません。70歳近い人が毎晩寝不足で、ストレスを抱え、きょうだいもおそらく頼りにならず、心と身体はかなり限界に近いのではないでしょうか。

いわば、命を削って孤独に介護をしている。この人が倒れたら、母親も最悪の場合、孤独死してしまいます。共倒れを防ぎ、自分も母親も守るために、早急に介護の専門家を頼るべきです。

そもそも「ママの言うことを聞いていれば大丈夫」なんて、実に恐ろしい呪いの言葉ですよ。母親は悪気もなく、相談者にことあるごとに言い聞かせて育ててきたのでしょう。そしてあなたは、母に従わなかったから失敗した、と思いこんでいる。

けれども、かつては支配しようとする母に徐々に気づいて、母と闘って自分で配偶者を選びました。その結婚生活がたまたまうまくいかなかった。それだけの話です。単に夫の側に問題があったのかもしれない。母の言うことを聞かなかったこととの因果関係はありません。

むしろ、一度だけでも母親にちゃんと反発できた、と自分を褒めるべきです。ひとりの女性が「母の望むような娘でいられなかった」ことに何の問題があるでしょう。

介護保険制度の解釈といい、相談者の中で、ものごとの捉え方が母親の価値観を通して歪められているようにみえます。最終的にはそこに気づいてほしい。そこから生き直すことは十分に可能です。