「心の奥底に、弱いところを人に見せるのは好きじゃないという思いがあるのかもしれません」

苦悩や挫折を仕事に活かして、みたいなこともないし、何か苦しみや悩みごとがあっても、そこにはいったん蓋をして、自分の心と体を常に健康な状態に持っていくようにしています。

なぜそれができるかというと、僕らは、ベートーヴェンのようにゼロから作品を作るクリエイターではないからなんですよね。誰かから与えられた作品を、演技や歌で表現するのが仕事です。それだけに、常に心が健全でいないと、職人として、仕事をまっとうできないんです。

それに僕の場合は、たとえ思い悩んだとしても、それを人に言わないですね。プライドが高いのかな? 心の奥底に、弱いところを人に見せるのは好きじゃないという思いがあるのかもしれません。

演じている役に引っ張られることも、ないですねえ。やっぱり芝居って人に伝えるものですし、作品は皆で作るものだから、あまり独りよがりになってもいけないと思うんです。何より、ずっと引っ張られていると身が持たない(笑)。味気ない言い方で申し訳ないですが、僕はそんなふうに考えています。

舞台には、ある程度前回をなぞっていかないと危険な部分や段取りがあります。そこと慣れとの戦いと言いますか、いかにして「いま初めて起きたものにするか」が大切なのだとしみじみ思います。